労働条件通知書の交付は義務? 記載内容や注意点を弁護士が解説

2024年02月15日
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労働条件通知書の交付は義務? 記載内容や注意点を弁護士が解説

令和4年度に山梨県内の総合労働相談コーナーに寄せられた、労働に関する相談は6488件でした。

会社が労働者(従業員)を雇い入れた際には、労働者に対して「労働条件通知書」を交付する必要があります。会社としては、労働基準法で定められた記載事項を確認して、適切な内容の労働条件通知書を交付することが大切です。

本コラムでは労働条件通知書について、記載すべき内容や交付すべき時期、交付時の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。

1、労働条件通知書とは?

労働条件通知書とは、使用者が労働者に対して労働条件を明示するために交付する書面です

労働基準法第15条第1項では、使用者が労働者に対して賃金・労働時間その他の労働条件を明示することが義務付けられています。
明示すべき労働条件のうち、一定の重要な事項については、原則として書面を交付して明示する必要があります(労働基準法施行規則第5条)。
その際に交付するのが「労働条件通知書」です。
労働条件通知書は、使用者が雇い入れるすべての労働者に対して交付する必要があります

なお、雇用契約書が使用者と労働者が共同で締結する書面であるのに対して、労働条件通知書は使用者が労働者に対して交付する書面であるという点が異なります。

2、労働条件通知書に記載すべき内容

以下では、労働条件通知書に記載する必要のある事項を解説します。

  1. (1)基本情報

    労働条件通知書の冒頭には、基本的な情報として、以下の事項を記載します。

    (a)労働条件通知書の交付日
    (b)労働者の氏名
    (c)使用者の事業場の名称および所在地
    (d)使用者の名称、代表者の職氏名
  2. (2)契約期間

    契約期間について、以下の事項を記載します。

    (a)期間の定めの有無
    (b)期間の定めがある場合は、以下の事項
    • 契約期間の始期と終期
    • 契約の更新の有無(+自動更新かどうか)
    • 契約更新の判断に関する考慮要素
    • 有期雇用特別措置法による特例の対象者の場合、無期転換申込権が発生しない期間
  3. (3)就業の場所

    就業の場所として、交付を受ける労働者が実際に働く場所を記載します。
    住所や支店・店舗などの名称を記載するのが一般的ですが、働く部署を記載することも可能です

    将来的に異動が想定される場合でも、雇い入れ直後の就業の場所を記載すれば足ります。
    また、将来の就業場所を併せて明示することもできます。

  4. (4)従事すべき業務の内容

    従事すべき業務の内容を「経理業務」「法務」「営業業務」などと具体的に記載します。

    将来的に異動が想定される場合でも、雇い入れ直後の業務の内容を記載すれば足ります
    就業場所と同じく、将来の業務内容を併せて明示することもできます。

  5. (5)始業・終業の時刻、休憩時間、就業時転換、所定時間外労働の有無

    労働時間に関する労働条件として、以下の事項を記載します。

    (a)始業・終業の時刻
    ※変形労働時間制・フレックスタイム制・事業場外みなし労働時間制・裁量労働制の場合は、その内容を記載する。また、参照すべき就業規則の条文も記載する
    (b)休憩時間
    (c)所定時間外労働(残業)の有無
  6. (6)休日

    休日について、以下の事項を記載します。

    (a)定例日(毎週○曜日、国民の祝日、その他)
    (b)非定例日(週・月当たり○日、その他)
    (c)1年単位の変形労働時間制の場合、年間の休日日数
    ※参照すべき就業規則の条文も記載する
  7. (7)休暇

    休暇について、以下の事項を記載します。

    (a)年次有給休暇(6か月継続勤務した場合の日数、継続勤務6か月以内の年次有給休暇の有無および日数、時間単位年休の有無)
    (b)代替休暇の有無
    (c)その他の休暇(有給・無給)
    ※参照すべき就業規則の条文も記載する
  8. (8)賃金

    賃金について、以下の事項を記載します。

    (a)基本賃金(月給、日給、時間休、出来高給など、就業規則に規定されている賃金等級等)
    (b)諸手当の額および計算方法
    (c)所定時間外、休日または深夜労働に対して支払われる割増賃金率
    (d)賃金締切日
    (e)賃金支払日
    (f)賃金の支払い方法
    (g)労使協定に基づく賃金支払時の控除の有無、内容
    (h)昇給の有無、時期、金額等
    (i)賞与の有無、時期、金額等
    (j)退職金の有無、時期、金額等
  9. (9)退職

    退職について、以下の事項を記載します。

    (a)定年制の有無、年齢
    (b)継続雇用制度の有無、上限年齢
    (c)自己都合退職の手続き(届出の期限)
    (d)解雇の事由および手続き
    ※参照すべき就業規則の条文も記載する
  10. (10)その他

    その他の労働条件として、以下の事項を記載します。

    (a)社会保険の加入状況
    (b)雇用保険の適用の有無
    (c)雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口(部署名、担当者職氏名、連絡先)
    (d)その他
    ※有期雇用の場合、無期転換ルール(労働契約法第18条)についても記載する

3、労働条件通知書を交付すべき時期

労働条件通知書は、労働者を雇い入れる際に交付しなければなりません

また、記載すべき労働条件を変更した場合には、労働条件通知書の再交付が必要になります。
どのように労働条件が変更されたのかについて、労働者にとっても分かりやすくなるように明示しましょう。

4、労働条件通知書を交付する際の注意点

以下では、労働条件通知書を交付する際に注意すべき点を解説します。

  1. (1)すべての労働者に交付する必要がある|パートやアルバイトにも交付すべき

    労働条件通知書は、すべての労働者に対して交付しなければいけません

    つまり、正社員のみならず、パートやアルバイトなどの非正規社員に対しても、雇い入れる際に労働条件通知書を交付する必要があります。

  2. (2)労働者が希望した場合は電子交付も可能

    労働条件通知書は、書面(紙)で交付することが原則です。

    ただし、労働者が希望する場合には、以下のいずれかの方法によって労働条件通知書を交付することも可能です(職業安定法施行規則第4条の2第4項、労働基準法施行規則第5条4項)。

    1. ① ファクシミリ送信
    2. ② 電子メールなどの電気通信による送信(出力・印刷できるものに限る)



    とくにペーパーレス化を推進する企業にとっては、電子メールなどによって労働条件通知書を交付できれば、そちらのほうがいいでしょう
    強制することは認められませんが、労働者に対して労働条件通知書の電子交付を提案することも検討してください。

  3. (3)雇用契約書と兼ねてもよい

    労働条件通知書は、雇用契約書と兼ねることもできます。

    雇用契約書は、使用者と労働者の間で締結する、労働条件などを定めた契約書です。
    雇用契約書の作成は法令上義務付けられていませんが、雇い入れ時に作成しておけば、労働者との間で労働条件に関する認識を共有することができます

    また、雇用契約書を作成している企業では、労働条件通知書を別途作成するケースと、雇用契約書が労働条件通知書を兼ねるケースの両方があります。
    雇用契約書が労働条件通知書を兼ねる場合は、労働条件通知書の記載事項のすべてを雇用契約書にもれなく記載することが大切です。

  4. (4)交付義務に違反すると刑事罰等の対象になる

    労働条件通知書の交付義務に違反した者は、「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法第120条第1号)。
    また、違反者が事業主のために行為した代理人・使用人その他の従業者である場合は、事業主に対しても「30万円以下の罰金」が科されます(同法第121条第1項)。

    労働条件通知書の交付義務違反は、労働者の労働基準監督署に対する申告(同法第104条第1項)などによって発覚する可能性があります。
    違反が疑われる場合、いきなり刑事処分が行われることはまれですが、労働基準監督署による臨検(立ち入り検査)が実施されることはよくあります
    もし臨検において違反状態を指摘され、是正勧告を受けた場合には、速やかに違反状態を是正しなければなりません。

    また、労働基準監督署による是正勧告や刑事罰を受けた場合、会社の評判が毀損されるおそれがあります。
    労働基準法違反を指摘されないように、労働条件通知書は適切に交付するようにしましょう。

5、まとめ

使用者は労働者を雇い入れる際や、労働条件を変更した際には、労働者に対して労働条件通知書を交付する必要があります。
労働条件通知書には、労働基準法および労働基準法施行規則に従いながら、所定の事項をもれなく記載しなければなりません。
労働条件通知書の作成方法や記載事項について不安がある場合は、専門家である弁護士に相談することも検討してください

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