非上場会社でも決算公告は義務? 行わないと罰則はある?

2022年08月04日
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非上場会社でも決算公告は義務? 行わないと罰則はある?

甲府商工会議所が令和4年(2022年)1月に行った調査によると、約80%の事業所がコロナ禍によりマイナスの影響を受けていると回答しました。

株式会社であれば、事業が厳しくとも、原則として「決算公告」が義務付けられています。規模の大小や上場の有無などを問わず、各企業は会社法の規定を踏まえて、正しい手続きにより決算公告を行う必要があります。

ただし、例外的に決算公告が不要となるケースもあります。株式会社の決算公告義務について、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和3年度 新型コロナウイルス感染症影響調査」(甲府商工会議所)

1、決算公告とは?

株式会社は、原則として毎年「決算公告」を行わなければなりません。

「決算公告」とは、大会社の場合は貸借対照表と損益計算書、大会社でない場合は貸借対照表を公告する手続きです(会社法第440条第1項)。

  1. (1)決算公告を行う目的

    決算公告は、株式会社の財務状況の透明性を確保するために義務付けられています。

    株式会社には、株主・債権者・取引先など、多数の利害関係者の存在が想定されています。決算公告によって財務状況が透明化されれば、これらの利害関係者が安心して株式会社と取引できるようになるでしょう。

    利害関係者から見た取引の安全を確保するため、株式会社は決算公告を行わなければならないのです

  2. (2)決算公告に記載すべき事項

    決算公告には、貸借対照表を(大会社の場合には貸借対照表に加えて損益計算書)、掲載します。

    さらに、決算公告には以下の記載が義務付けられています(会社法第440条第1項、会社計算規則第136条第1項)。

    • 継続企業の前提に関する注記
    • 重要な会計方針に係る事項に関する注記
    • 貸借対照表に関する注記
    • 税効果会計に関する注記
    • 関連当事者との取引に関する注記
    • 一株当たり情報に関する注記
    • 重要な後発事象に関する注記
    • 当期純損益金額(損益計算書を公告する場合は不要)


    ただし、官報または日刊新聞紙によって決算公告をする場合には、紙面が限られているため、貸借対照表の要旨を公告するだけで足ります(会社法第440条第2項)。

    この場合、貸借対照表の要旨公告は、会社計算規則第137条から第142条の規定に従って行いましょう。

  3. (3)決算公告を行うタイミング

    決算公告を行うのは、毎年の定時株主総会が終結した後です。

    株式会社は、定時株主総会の終結後、遅滞なく決算公告を行う必要があります(会社法第440条第1項)。具体的な期限はありませんが、決算月の終了後から少しずつ準備を進め、できるだけ早い段階で決算公告が行えるようにしておきましょう。

2、非上場会社でも決算公告は義務|ただし例外あり

決算公告は、株式会社である限り、非上場会社であっても会社法上義務付けられます。

規模の小さい非上場会社では、決算公告を行っていない例がよく見られますが、会社法の規定にのっとって適切に決算公告を行いましょう。

  1. (1)非上場会社にも決算公告が義務付けられる理由

    非上場会社であっても、事業活動を行う限りは、株主・債権者・取引先などの利害関係者との関わりを避けられません。

    これらの利害関係者は、株式会社の財務状況に対して重大な関心を持っています。株式会社の財務状況が悪化すると、保有する株式が無価値になったり、債権が回収できなくなったりするおそれがあるからです。

    利害関係者に対する透明性を確保する必要性がある点は、上場会社と非上場会社で異なりません。むしろ、市場からの監視が行き届かない非上場会社こそ、財務状況の透明性を何らかの方法で確保する必要があります

    そこで、会社法では、非上場会社にも決算公告を原則として義務付けることで、利害関係者に対する透明性確保を図っているのです。

  2. (2)持分会社は決算公告の義務を負わない

    株式会社とは異なり、持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)については、決算公告義務の対象外とされています。

    持分会社の中でも、特に合同会社は、社員が「有限責任※」しか負わない会社形態です。(※有限責任:社員(株主)が会社の債権者に対して直接責任を負わず、倒産などによって出資が無価値になることによる間接的に責任を負うにとどまること)

    合同会社設立費用は株式会社よりも安価で、決算公告を行う必要もありません。小規模なビジネスをシンプルな形で営みたい場合は、株式会社ではなく合同会社を設立することも、有力な選択肢となるでしょう。

  3. (3)株式会社でも決算公告が不要となるケース

    株式会社であっても、以下のいずれかに該当する場合には、決算公告が不要とされています。

    ① 上場会社である場合
    上場会社は、有価証券報告書の提出によって、財務状況の詳細な開示が義務付けられています(金融商品取引法24条1項)。

    よって、決算公告を別途行わせる必要性がないため、上場会社は決算公告義務の対象外とされています(会社法第440条第4項)。

    ② ホームページ等で貸借対照表の内容を公表している場合
    インターネットを通じて貸借対照表の内容情報を提供していれば、決算公告を代替する財務状況の開示が行われたものとして、決算公告義務が免除されます(会社法第440条第3項、会社計算規則第147条)。

    なお、インターネットを通じた貸借対照表の情報提供は、定時株主総会の終結後遅滞なく行うとともに、終結日から5年が経過するまで継続して行わなければなりません。また、この措置を取る場合は、当該インターネットのウェブサイトのアドレスを登記することが必要です(会社法911条第3項27号、会社法施行規則220条第1項1号)。

    ③ 特例有限会社の場合
    かつて「有限会社法」(現在は廃止)によって設立され、現在も商号に「有限会社」の文字を冠している会社を「特例有限会社」と言います。

    有限会社法の下では、有限会社に決算公告は義務付けられていませんでした。その経緯を考慮して、特例有限会社は決算公告義務の対象外とされています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第28条)。

3、決算公告を怠った場合は過料の対象

決算公告を怠った場合、株式会社の取締役・監査役等の役員は「100万円以下の過料」の対象となります(会社法第976条第1項2号)。

実際には、義務があるにもかかわらず決算公告を行っていない株式会社はたくさんあるため、過料の制裁が課されることはほとんどありません。

しかし、その可能性が全くないとは言えないので、会社法の規定に従って決算公告を行うことをおすすめいたします。

4、決算公告を行う方法・手続き

会社法では、決算公告の方法として3種類が認められています。定款等により定められた方法に従い、適切なタイミングで決算公告を行ってください。

  1. (1)決算公告の方法|官報・日刊新聞紙・電子公告

    決算公告の方法には、官報・日刊新聞紙・電子公告の3つがあります。

    ① 官報
    平日に毎日発行される官報(政府の機関紙)に、貸借対照表の要旨を掲載して決算公告を行います。

    ② 日刊新聞紙
    時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に、貸借対照表の要旨を掲載して決算公告を行います。

    ③ 電子公告
    会社のホームページに掲載するなど、オンライン上で決算公告を行います。
    電子公告の場合、貸借対照表(大会社は損益計算書も)その他の注記事項をすべて掲載しなければなりません。


    決算公告は、定款で定めることによって、上記の3つのうちいずれかの公告方法によって行うことができます(会社法第939条第1項)。

    ただし、定款に公告方法の定めがない場合は、官報によって決算公告を行わなければなりません。(同条第4項)。

  2. (2)決算公告の手続き|計算書類の承認・所定の方法による決算公告

    決算公告を行う場合、まず貸借対照表・損益計算書などの計算書類(決算書類)について、以下の監査・承認手続きを行います。

    • 監査役設置会社→監査役による監査(会社法436条第1項)
    • 会計監査人設置会社→監査役および会計監査人による監査(会社法436条第2項)
    • 取締役会設置会社→取締役会による承認(会社法436条第3項)


    続いて、監査・承認済みの計算書類を定時株主総会に提出・提供し、普通決議による承認を受ける必要があります(会社法第438条1項、2項)。

    計算書類について株主総会の承認が得られたら、その内容をベースとして、決算公告資料を作成します。定時株主総会の終結後、遅滞なく決算公告を行えるように、定時株主総会の前からあらかじめドラフトを作成しておくことが望ましいです。

    決算公告資料が完成したら、定款所定の方法により決算公告を行いましょう。

5、まとめ

株式会社の場合、非上場会社であっても、毎年決算公告を行う義務を負います。小規模な会社では決算公告を行っていない会社も多いようですが、義務違反は過料の制裁の対象となるため、会社法の規定に従って決算公告を行いましょう。

決算公告を含めて、法人決算の業務を煩雑に感じている場合には、弁護士へのご相談をおすすめいたします。ベリーベスト法律事務所は、弁護士がグループ内税理士と連携し、決算に関する会社法関連の手続きや、法人税の申告などをワンストップでサポートいたします

会社の決算、その他会社運営に関するお悩みは、どんなことでも構いませんので、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスにご相談ください。

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