離婚の慰謝料は強制執行で回収できる? 強制執行の条件と注意点
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山梨県が公表している統計資料によると、令和2年の山梨県内の離婚件数は1296件で、離婚率(人口千対)は、1.63でした。全国の離婚率が157であったことから、山梨県内の離婚率は全国と比較しても高い水準であることがわかります。
配偶者の不貞、暴力などが離婚の原因であった場合には、離婚時に慰謝料の請求をすることができます。このとき、慰謝料をその場で一括払いにしてもらえればよいですが、支払期日が後日となった場合や分割払いとなった場合には、将来相手が支払いを怠るリスクがあります。
相手が支払いを怠った場合には、強制執行という手続きをとることによって、未払いの慰謝料を回収することが可能です。今回は、離婚の慰謝料を回収するための強制執行の条件と注意点について、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
1、慰謝料が未払いの相手に対して強制執行ができる条件
慰謝料の支払いを怠っている相手に対して、強制執行をするためには、以下の条件を満たす必要があります。
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(1)債務名義を取得していること
強制執行の申立てをするためには、「債務名義」を取得していることが必要になります。
債務名義とは、債権の存在と範囲を公的に証明した文書のことであり、具体的には、以下のような文書が債務名義にあたります。
- 確定判決
- 仮執行宣言付判決
- 和解調書
- 調停調書
- 執行認諾文言付公正証書
- 仮執行宣言付支払督促
たとえば、離婚裁判によって慰謝料の支払いが命じられた場合には、確定判決が債務名義になり、離婚調停で慰謝料の支払いに関する合意が成立した場合には、調停調書が債務名義になります。
これに対して、協議離婚の際に、離婚協議書を作成していて、そのなかで慰謝料の支払いが定められていたとしても、当事者間で作成した離婚協議書では、債務名義にはなりません。
この場合には、離婚協議書を証拠として、慰謝料の支払いを求める民事裁判を起こして、確定判決を得る必要があります。 -
(2)相手に慰謝料を支払うだけの財産があること
強制執行は、相手の財産を差押えて、強制的に未払いの債権を回収する手続きとなります。
そのため、強制執行をするためには、相手に慰謝料を支払うだけの財産があることが必要となります。裁判で慰謝料の支払いが命じられたとしても、慰謝料を支払うだけの財産がない人からは、慰謝料を回収することはできませんので注意が必要です。 -
(3)相手の住所や財産を把握していること
強制執行の申立てをすると、裁判所から相手に対して書類が送達されます。
ただし、住所が不明であった場合には、書類の送達をすることができませんので、原則として強制執行の手続きを行うことができません。
例外的に公示送達という方法をとることができますが、公示送達をするためには、住所が不明であるということをきちんと調査しなければなりません。このように、強制執行の申立てにあたっては、相手の住所を把握していることが必要となります。
また、強制執行の申立ての際には、申立てをする債権者の側で、差押えの対象となる財産を特定して申立てをしなければなりません。相手に慰謝料を支払うだけの財産があったとしても、その財産の所在を把握していなければ、強制執行によって未払いの慰謝料を回収することはできません。
2、差押えの対象となる財産
強制執行によって差押えの対象となる財産としては、以下のものが挙げられます。
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(1)債権
債務者が有している債権を差押えの対象とすることができます。債権の代表的なものとしては、勤務先に対する給与債権、金融機関に対する預貯金債権が挙げられます。
勤務先に対する給与債権を差し押さえた場合には、その月の給与だけでなく慰謝料の全額を回収することができるまで毎月差押えの効力が及びます。そのため、相手が会社を辞めない限りは、毎月の給与から未払いの慰謝料を回収することができます。
これに対して、預貯金債権の差押えは、差押えをした時点の預貯金残高が対象となりますので、それ以降に入金された預貯金については差押えの効力は及びません。 -
(2)動産
差押えの対象となる動産としては、以下のものが挙げられます。
- 自動車
- 骨董品
- 美術品
- 宝石類
- 現金
動産は、一般的には換価しても価値が乏しいため、差押えの対象にすることがほとんどありません。高価な骨董品、美術品、宝石類などがあったとしても、それを特定することが難しいというのも動産執行があまり利用されない理由のひとつといえます。
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(3)不動産
相手が、土地や建物といった不動産を所有している場合には、不動産を差し押さえることによって、未払いの慰謝料を回収することができる場合があります。
ただし、不動産に銀行などによる担保権が設定されている場合には、差押えができたとしても、銀行による担保権が優先されますので、実際に不動産を換価しても債権の回収を実現することが難しい場合があります。そのため、未払いの慰謝料を回収するために行われる強制執行としては、主に債権を対象として行われています。
3、差押えができない財産
以下では、差押えをすることができない財産と差押えをするときの注意点について説明します。
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(1)差押えができない財産
相手の財産であればどのような財産でも差押えをすることができるというわけではありません。以下のような財産については、差押えをすることが禁止されています。
① 差押禁止動産
債務者の生活に不可欠となる動産については、差押えをすることが禁止されています。
具体的なものとしては、以下のものが挙げられます。
- 66万円までの現金
- 生活に不可欠となる家財道具、衣服など
- 職業上欠くことができない器具など
- 実印
- 仏像、位牌
- 勲章
② 差押禁止債権
給与債権は、差押えをすることができる債権となりますが、全額を差し押さえることができるわけではありません。
給与は、債務者が生活するために必要不可欠となるものですので、以下の範囲を超える部分については、差押えが禁止されます。
- 手取り額が月額44万円以下:手取り額の4分の1
- 手取り額が月額44万円を超える:手取り額から33万円を引いた額
なお、上記は慰謝料請求の場合であり、婚姻費用や養育費などの扶養義務等にかかわる金銭債権を請求する場合、平成15年改正により、給与のうち差し押さえることができる範囲が広げられています。
また、社会保障として支給される国民年金、厚生年金、生活保護給付金についても差押えが禁止されています。
ただし、国民年金、厚生年金、生活保護給付金が債務者の口座に振り込まれた後は、単純な預貯金債権となりますので、その中に年金分が含まれていたとしても、全額が差押えの対象となります。 -
(2)差押えをするときの注意点
差押えをする際には、以下の点に注意が必要です。
① 差押禁止の範囲が広げられる可能性がある
年金や生活保護費などが債務者の預貯金口座に入金された後は、預貯金債権を対象にして差押えをすることができます。
しかし、債務者から差押禁止範囲変更の申し立てがなされて、それが認められた場合には、年金や生活保護費が振り込まれた預貯金口座を差し押さえることができなくなってしまいます。
② 預貯金債権の差押えはタイミングが重要
預貯金債権を対象として差押えをする場合には、差押え時点の預貯金残高が対象となりますので、どのタイミングで差押えをするのかが非常に重要となります。
債務者が預貯金をすべて引き出した後に差押えがなされた場合には、差押えによって回収することができるお金が0円となってしまうこともあります。
そのため、給与の支払日、年金の支払日など債務者の預貯金口座に入金がなされるタイミングで差押えをすることが必要となります。
4、差押え差押手続の流れ
以下では、未払いの慰謝料を回収するために相手の債権を対象として差押えをする場合の手続きの流れについて説明します。
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(1)相手の住所や財産などについて調査
強制執行の申立てをする際には、相手の住所と財産を特定して行う必要があります。そのため、まずは相手の住所や財産について調査をする必要があります。
住所については、住民票や戸籍の附票などを取得することによって調査することができますが、元配偶者という立場では取得することが困難ですので、弁護士に依頼して調査を行うとよいでしょう。
また、相手の財産については、裁判所の財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きを利用することによって、相手の財産に関する情報を把握することができる場合があります。これについても弁護士に依頼して進めていきましょう。 -
(2)裁判所への申し立て書類の準備
強制執行の申立てをするためには、以下の書類が必要になりますので、申立て前に準備をしましょう。
- 債権差押命令申立書
- 執行力のある債務名義正本
- 債務名義の送達証明書
- 資格証明書(債権者、債務者、第三債務者が法人である場合)
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(3)裁判所に「債権差押命令申立」を行う
必要な書類がそろった段階で、相手方の住所地を管轄する地方裁判所に債権差押命令の申立てを行います。
申立て時には、手数料として4000円分の収入印紙と郵便切手が必要になります。郵便切手の金額と組み合わせについては、申立てをする裁判所によって異なりますので、事前に確認をしておくとよいでしょう。 -
(4)債権差押命令の発令
債権差押命令の申立てが受理されると、裁判所においてその内容の確認が行われ、問題がなければ、債権差押命令が発令されます。
債権差押命令は、まずは、裁判所から第三債務者(債務者の勤務先、金融機関など)に送られて、第三債務者から債務者の支払いが禁止されます。その後、裁判所から債務者に債権差押命令が送られます。 -
(5)相手の勤務先や金融機関などに取り立てをする
債権差押命令が発令されただけでは、未払いの慰謝料の回収は完了していません。実際の慰謝料の回収は、債権者本人が行わなければなりません。第三債務者である相手の勤務先や金融機関に直接連絡をして、取り立てを行います。
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(6)裁判所に取立届を提出
未払いの慰謝料を全額回収することができたら、裁判所に「取立届」を提出して、差押えの手続きは終了となります。
5、まとめ
離婚時に取り決めた慰謝料が支払われない場合には、強制執行の手続きをとることによって、回収することが可能です。もっとも、強制執行の手続きをするためには、確定判決、公正証書といった債務名義が必要になりますので、しっかりとした債務名義を取得するためにも弁護士のサポートを受けながら離婚を進めていくようにしましょう。
離婚や慰謝料請求でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスまでお気軽にご相談ください。
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