死体遺棄罪、死体損壊罪とは? 具体的な行為・要件・罰の重さを解説
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令和2年5月、甲府市に住む人物が「死体遺棄」の疑いで甲府署に逮捕されました。同居していた家族の遺体を自宅に放置した疑いです。親族が自宅を訪れて事件が発覚し、逮捕に至ったという経緯でした。
ニュースや新聞で報じられる事件を見ていると、この事例のように「死体遺棄」の容疑で逮捕されたという情報が流れることがあります。なかには殺人が疑われる状況なのに死体遺棄の容疑で逮捕される事例もあるので、死体遺棄とはどのような犯罪なのか、気になっている方もいるでしょう。
本コラムでは「死体遺棄罪」について、成立する要件や刑罰の重さ、別の犯罪との関係などを、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
1、死体遺棄罪とは? 死体損壊等罪に問われる行為
まずは「死体遺棄罪」がどのような犯罪なのかを確認していきましょう。
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(1)死体遺棄罪とは?
刑法第190条には「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者」を、死体損壊等の罪で処罰する旨が明記されています。この死体損壊等罪に含まれるのが「死体遺棄罪」です。
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(2)本罪が成立する要件
死体遺棄罪を含めた死体損壊等罪が成立する要件について、条文を分解しながら確認します。
- 死体・遺骨・遺髪
死体とは、死亡した人の身体のことです。臓器など身体の一部である場合や、人の形状をしている胎児もこれに含まれます。
遺骨・遺髪は、祭祀(さいし)や礼拝の対象として保存し、又は保存すべき死者の骨や毛髪です。 - 棺に納めてある物
棺の中に納められている遺品などを指します。棺そのものは対象にならないと考えるのが通説です。 - 損壊
物理的に破壊する行為です。たとえば、死体の四肢を切り離したり、遺骨を粉砕したりといった行為が該当します。なお、故人の遺骨を親族が分けるために砕くなど、祭祀・礼拝の意図がある行為は本罪の損壊にはあたらないとするのが通説です。 - 遺棄
習俗上の埋葬とは認められない方法で死体などを放棄する行為です。人の死亡を隠すなどの目的で死体を別の場所に移動させるのが典型的ですが、たとえば病気などの理由で自宅において家族が死亡したのに、適切な火葬・埋葬の手続きを取らず放置したままにすることも遺棄にあたります。
他人が死体を発見することが難しい状況になるように死体を隠す行為が遺棄にあたるかどうかは、その方法自体が習俗上の埋葬等と相いれない処置といえるかどうかという点から検討されます。
技能実習生として働いていた女性が自室で出産したえい児2名の死体をタオルに包んで段ボール箱に入れ、棚の上に置くなどした行為が遺棄にあたるのか問題となった事案において、最高裁判所は、それが行われた場所、死体のこん包や設置の方法等に照らして、その方法自体がいまだ習俗上の埋葬等と相いれない処置とは認められないとして遺棄にあたらないと判断し、無罪を言渡しました。
なお、適切な火葬・埋葬の義務を負うのは同居の親族やそのほかの同居人、家主や地主などであり、そのほかの立場の人であれば放置だけでは遺棄にあたりません。 - 領得
対象物を取得して自分の物にしたり、第三者の物にしたりといった行為です。棺の中に納められている遺品などを盗むなどの行為が考えられます。
- 死体・遺骨・遺髪
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(3)死体損壊等罪の刑罰
死体遺棄罪・死体損壊等罪には、3年以下の懲役が科せられます。
罰金の規定はないので、刑事裁判において有罪になればかならず懲役が選択される重罪です。
2、お墓を暴いたり遺骨を壊したりしても罪になる
死体遺棄罪・死体損壊等罪に近い行為として挙げられるのが「墳墓発掘罪」や「墳墓発掘死体損壊等罪」です。
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(1)墳墓発掘罪とは?
墳墓発掘罪とは、刑法第189条に定められている犯罪です。
墳墓を発掘した者は、2年以下の懲役が科せられます。
本罪における「墳墓」とは、墓地などに設置されている墓石や墓標などのように祭祀・記念の対象となるような場所です。
死者に対する崇敬や宗教的な感情を保護する規定なので、墓石や墓標が立てられていなくても埋葬されている場所を暴けば本罪が成立します。
また、墳墓の所有者を保護する性質の規定ではないので、いわゆる無縁墓であっても本罪の保護対象です。
「発掘」とは、土の全部または一部を掘り起こす行為や、墓石などを損壊させる行為を指します。
なお、古墳は祭祀・記念の対象ではなく歴史的な価値をもつ史跡なので、本罪では保護されません。
ただし、許可を得ず古墳を暴くと文化財保護法に、発掘品や出土品を無断で領得すれば刑法第254条の占有離脱物横領罪に問われるおそれがあります。 -
(2)墳墓発掘死体損壊等罪とは?
墳墓発掘罪にあたる行為を犯したうえで、死体・遺骨・遺髪・棺に納めてある物を損壊したり、遺棄や領得したりといった行為は、刑法第191条の「墳墓発掘死体損壊等罪」に問われます。
「墳墓発掘罪」を犯し、さらに「死体損壊等罪」を犯した場合に成立する犯罪で、3か月以上5年以下の懲役が科せられます。
3、殺人罪と死体遺棄罪の関係
ニュースなどで死体遺棄事件が報じられるケースでは、殺人事件と関連しているものもめずらしくありません。
以下、殺人罪と死体遺棄罪の関係をみていきます。
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(1)殺人の証拠がそろわない場合は死体遺棄の容疑で逮捕されるケースが多い
死体遺棄や死体損壊は、殺人に伴っておこなわれることの多い行為です。死体を山中に遺棄した、死体を切断して隠したといった行為は、殺人の事後行為としては典型的でしょう。
殺人事件や死体遺棄事件の多くは、死体が発見されることによって発覚します。さらに、死体の状況や周辺の捜査から死体を遺棄・損壊させた人物が特定されますが、一方で、死体を遺棄・損壊させたことが事実でも、殺人を証明するのは容易ではありません。
そこで、警察はまず明らかな死体遺棄・損壊の容疑で逮捕に踏み切って、その後の取り調べを通じて証拠をそろえて殺人への関与を追及するといった捜査手法を多用しています。
明らかな死体遺棄罪・死体損壊等罪の容疑で逮捕し、本題である殺人容疑へと切り替えて再逮捕するといった流れは法的にも問題はありません。
しかし、容疑者にとっては死体遺棄罪・死体損壊等罪で身柄拘束を受けたうえで、さらに殺人罪でも身柄拘束を受けることになります。そのため、長期にわたって社会から隔離されるという大きな不利益を強いられてしまいます。 -
(2)殺人のあとで遺体を別の場所に移すと刑罰が加重されることがある
殺人を犯した人の心理としては、事件の発覚を恐れて死体を遺棄したり、損壊したりといった行為をはたらくのも不自然ではないでしょう。
殺人罪と死体遺棄罪・死体損壊等罪は、手段や結果といった関係にはないので、それぞれ別の行為です。
つまり、殺人を犯したうえで死体を遺棄した場合、殺人罪と死体遺棄罪の両方に問われます。
殺人罪と死体遺棄罪・死体損壊等罪の両方が成立する場合、両罪は「併合罪」として扱うというのが通説です。
併合罪の関係にある複数の犯罪は、併科の制限を受けます。殺人罪で死刑に処される場合や無期懲役に処される場合は、ほかの刑罰は科せられません。
有期懲役が科せられる場合は、最も重い罪の懲役の上限が1.5倍になります。ただし、各罪の懲役の上限を超えることはできないので、殺人罪と死体遺棄罪・死体損壊等罪で有期懲役を科せられる場合は、「有期懲役の上限20年+死体遺棄罪・死体損壊等罪の上限3年=23年以下の懲役」が科せられます。
なお、殺人事件の犯人が適切な埋葬手続きを取らずにその場から逃げるのは当然であり、埋葬義務は負わないので、その場を離れても死体遺棄罪には問われません。
4、死体遺棄事件では早期に弁護士のサポート依頼を
死体遺棄事件の容疑者として捜査の対象になってしまうと、死体遺棄にあたる行為について厳しい取り調べを受けるのはもちろん、殺人罪の容疑もかけられてしまい、長期の身柄拘束を受けるおそれがあります。
社会復帰への悪影響は計り知れないので、早期の釈放と刑罰の軽減を目指した弁護活動は欠かせません。ただし、死体遺棄罪や殺人罪は極めて重大な犯罪なので、厳しい処分を避けるのは難しいというのが現実です。
死体遺棄罪を犯した事情に悪意がなかったことや殺人罪は犯していないことを法的な角度から客観的に主張する必要があるので、容疑をかけられてしまったら、ただちに弁護士に相談してサポートを依頼しましょう。
5、まとめ
死体遺棄罪・死体損壊等罪は、死体・遺骨・遺髪などを遺棄したり、損壊・領得したりといった行為を罰する規定です。警察に発覚すれば逮捕や厳しい刑罰を避けるのは難しいので、弁護士のサポートは欠かせません。
死体遺棄罪・死体損壊等罪の容疑をかけられてしまった場合は、ただちに刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 甲府オフィスへご相談ください。
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