月80時間の残業は過労死ライン? 基準や具体的な対処法
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山梨労働局の調査によると、令和4年度に山梨県内で月80時間を超える時間外労働が確認されたのは60事業場あることがわかりました。こうした長時間労働の是正に向けて、山梨労働局では「過重労働解消キャンペーン」などが行われています。
月80時間を超えるような残業を強いられている場合、そのままの状態が続くと心身に不調が生じ、過労死になるリスクもありますので注意が必要です。また、過労死ラインに匹敵するような長時間残業が常態化している職場では、残業代が未払いになっている可能性もありますので、しっかりと確認することが大切です。
今回は、月80時間以上の残業と過労死ラインとの関係、違法な長時間残業を強いられているときの対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
1、80時間以上の残業は違法? 過労死ラインについて
月80時間以上の残業は、過労死ラインに匹敵する水準になります。以下では、過労死ラインの概要と長時間残業のリスクについて説明します。
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(1)そもそも過労死とは
過労死とは、過労死等防止対策推進法2条により、以下のように定義されています。
- 業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡
- 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
- 死亡には至らないもののこれらの脳血管疾患、心臓疾患、精神障害
このような過労死は、長時間労働、不規則な勤務時間、職場でのストレスなどさまざまな要因が絡み合って発生します。特に、長時間労働が続いて睡眠が不足すると、疲労の蓄積により過労死のリスクが高くなります。
長時間労働がきついと感じるときは、過労死という最悪の事態が起きる前に適切な対応をとるようにしましょう。 -
(2)厚生労働省が設けている「過労死ライン」の基準
過労死ラインとは、長時間労働により、脳・心臓疾患、精神疾患などの健康障害のリスクが高まる残業時間の目安を定めたものです。
厚生労働省が定める「脳・心臓疾患の認定基準(過労死ライン)」では、時間外労働がおおむね月45時間を超えると業務と発症との関連性が強まり、以下のような長時間労働が原因で脳・心臓疾患が発症した場合、業務と過労死との関連性が強いと評価されます。- 発症前1か月間の時間外労働がおおむね100時間を超えていること
- 発症前2か月間ないし6か月間にわたり、1か月あたりの時間外労働がおおむね80時間を超えていること
このように過労死ラインでは「月100時間の残業」または「1か月平均80時間の残業」が過労死のリスクの高くなる目安として考えられています。
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(3)なぜ長時間労働が危険なのか|長時間労働による心身への影響
長時間労働が続くと、労働者は適切な休養を取ることができず、疲労や精神的ストレスの蓄積を招き、以下のような健康障害を引き起こす危険があります。
【身体疾患】
- 脳内出血
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 高血圧性脳症
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心停止
- 重篤な心不全
- 大動脈解離
【精神疾患】
- うつ病
- 不眠
- 不安障害
このような健康障害が生じると最悪のケースでは、死亡や自殺で命を落としてしまう危険がありますので、長時間労働の常態化は非常にリスクの高い状態といえるでしょう。
2、80時間以上の残業は違法なのか?
では、月80時間以上の残業は違法なのでしょうか。以下では、月80時間以上の残業における問題点を説明します。
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(1)法定労働時間を超えて働く場合は36協定の締結・届出が必要
労働基準法では、1日につき8時間、1週間につき40時間を法定労働時間と定めており、これを超えて働かせるためには労働組合または過半数代表者との間で36協定を締結し、それを労働基準監督署に届け出なければなりません。
36協定の締結・届出なく法定労働時間を超える時間外労働をさせるのは、労働基準法違反になります。 -
(2)残業には法律上上限が設けられている
36協定の締結・届出により適法に残業をすることができますが、残業には月45時間・年360時間という上限が設けられています。
ただし、繁忙期など臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付きの36協定を締結・届出することにより、残業時間の上限が以下のように延長されます。- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計が2~6か月平均のすべてで月80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えられるのは年6か月まで
長時間残業が常態化しており、残業80時間以上が毎月のように続いている場合には、残業時間の上限規制に違反しますので、違法な長時間残業となります。 -
(3)長時間労働が常態化している会社では残業代が未払いになっている可能性が高い
長時間残業が常態化している会社では、過労死のリスク、残業時間の上限規制違反などの問題に加えて、本来支払われるべき残業代が未払いになっている可能性が高いです。
残業80時間以上が続いている場合、残業代も高額になりますので、未払いの残業代がある場合は、しっかりと請求していくことが大切です。
また残業代請求には、3年という時効がありますので、残業代請求をお考えの方は、なるべく早めに行動することをおすすめします。
お問い合わせください。
3、違法な長時間残業が常態化している場合の対処法
残業80時間以上という違法な長時間残業が常態化している場合、以下のような対処法が考えられます。それぞれ見ていきましょう。
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(1)上司に相談
違法な長時間残業がきついと感じるときは、まずは職場の上司に相談することで解決されるケースもあります。
上司が労働時間や業務負担をきちんと把握していないために長時間残業が生じているのであれば、上司に相談することで各労働者の業務負担量が調整されて、長時間残業の問題が解決できる可能性があります。
ただし、上司が長時間残業を指示していたり、長時間残業を黙認していたりするような状況では、相談をしても現状の改善はあまり期待できないでしょう。 -
(2)労働基準監督署や労働局への相談
違法な長時間労働が常態化している場合は、労働基準監督署や労働局に相談することも有効な手段です。
労働基準監督署や労働局では、労働者からの相談に対してアドバイスをしてくれるだけでなく、労働基準法などの法令違反の疑いがある事案については、調査を行い、助言や是正勧告などを行ってくれます。会社が助言や是正勧告に従ってくれれば、現状の違法な長時間残業が改善されるでしょう。
ただし、助言や是正勧告には法的な強制力がありませんので、会社が任意に従ってくれない場合には、効果は期待できません。 -
(3)弁護士への相談
違法な長時間残業が常態化している職場では、残業代が未払いになっている可能性があります。弁護士に相談をすれば未払い残業代請求のサポートをしてもらえますので、これまでの未払い残業代を回収できる可能性が高くなります。
また、違法な長時間残業が常態化している職場で働き続けるのは過労死のリスクが高いため、退職するというのもひとつの選択肢となります。しかし、悪質な会社では労働者から退職の申し出をしてもやめさせてもらえない「在職強要」をされる可能性があります。このような場合でも弁護士に相談すれば、会社を辞めるためのサポートをしてもらえます。
労働者個人では難しいような対応も弁護士ならスムーズに行うことができますので、違法な長時間残業がつらいと感じるときは、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
お問い合わせください。
4、弁護士がサポートできる3つのこと
違法な長時間労働を強いられている場合、弁護士は、労働者に対して、以下のようなサポートをすることができます。
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(1)証拠集めを弁護士がサポート
違法な長時間残業が常態化している職場では、残業代が未払いになっている可能性が高いです。
そのような場合、会社に対して未払い残業代請求を行っていくことになりますが、その際に重要になるのが残業の証拠です。事案に応じた適切な証拠収集をしなければ、残業代の支払いを受けるのは困難ですので、弁護士によるサポートが必要になります。
弁護士に相談・依頼をすれば、会社に対して任意の証拠開示請求や裁判所への証拠保全の申し立てにより、残業代請求に必要な証拠を確保することができます。また、証拠に基づく残業代計算も弁護士が対応しますので、迅速かつ正確に未払い残業代の金額を明らかにすることができます。 -
(2)会社との交渉を弁護士が行ってくれる
残業代を請求する場合、まずは会社との交渉を行うことになります。
しかし、会社と労働者とでは、労働者の方が圧倒的に不利な立場にありますので、労働者個人の力では自分の希望を実現するのは困難です。このような場合には、会社との交渉を弁護士に任せるのがおすすめです。弁護士であれば労働者の代わりに会社と交渉することができますので、対等な立場で話し合いを進めることができます。
弁護士に交渉の一任できますので、労働者の負担を大幅に軽減できるというメリットもあります。 -
(3)労働審判や裁判になっても、そのまま弁護士に任せることができる
会社との交渉が決裂すると話し合いでの解決は困難ですので、労働審判の申し立てや訴訟提起が必要になります。
労働審判や訴訟といった法的手続きは、専門的な知識や経験がなければ対応が難しいため、労働者個人で対応するのではなく専門家である弁護士に依頼した方がよいでしょう。弁護士であれば労働者の権利の実現に向けて、法的観点からサポートしてもらうことができますので、個人で対応するよりも有利な結果を得られる可能性が高くなります。
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5、まとめ
残業80時間以上は、過労死ラインに匹敵する残業時間になりますので、過労死のリスクが高くなります。また、残業時間の上限規制にも違反する違法な長時間労働になりますので、未払い残業代が発生している可能性が高いです。
残業代が未払いになっている場合、金額も高額になりますので、時効により権利が失われてしまう前に早めに弁護士に相談することをおすすめします。
残業80時間以上という長時間残業でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
