仮眠時間は労働時間に含まれる? 未払い賃金の請求方法を弁護士が解説

2025年11月19日
  • 残業代請求
  • 仮眠時間
  • 労働時間
仮眠時間は労働時間に含まれる? 未払い賃金の請求方法を弁護士が解説

令和5年度、長時間労働が疑われる山梨県内の事業所を対象とした調査の結果、375事業所中326事業所で法令違反が確認されました。中でも違法な労働時間が確認されたのが184事業所、残業代の未払いが発生している事業所が35事業所あったとされています。

労働基準法では労働時間や休憩時間・賃金の支払いなどについて厳正に規定しており、事業主は法令に従わなくてはなりません。仮眠時間が労働時間と認められる場合、賃金や残業代が適正に支払われる必要があります。

本コラムでは、勤務時間中の仮眠時間の扱いや請求方法などについて、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。


労働問題を弁護士に相談 労働問題を弁護士に相談

1、仮眠時間は労働時間になる?

仮眠時間が労働時間に該当するかどうかは、労働環境や具体的な業務内容によって異なります。以下では、仮眠時間をめぐる基本的な定義や法的な取り扱いについて確認していきましょう。

  1. (1)休憩時間と仮眠時間の定義

    休憩時間とは、労働者が業務から完全に開放され自由に過ごせる時間です。労働基準法では、労働時間に応じた最低限の休憩時間が規定されています。

    労働時間 休憩時間
    6時間未満 規定なし
    6時間超え8時間以下 45分
    8時間超え 1時間

    休憩時間中は一切の労働をする必要がなく、賃金も発生しません。

    対して仮眠時間は、短時間の睡眠などをとることが許されている時間です。労働基準法では、仮眠時間の時間や長さに関する規定は設けられていません。

    そのため、仮眠時間の長さなどの規定は各企業に委ねられます。

  2. (2)仮眠時間は労働時間に該当する可能性がある

    仮眠時間は、休憩時間ではなく労働時間に該当する可能性があります。

    仮眠時間が労働時間に該当するかどうかを判断するポイントは、労働者が「業務から解放されることが保障されているか」です。仮眠時間を労働基準法上の休憩時間とするには、労働者が使用者の指揮命令下から解放され、自由に過ごせる時間でなくてはなりません。

    たとえば、仮眠時間中でも緊急事態には対応しなければならないとされていた場合、労働時間として主張できる可能性が高くなります。実際に緊急対応を行ったかどうかにかかわらず、実務上は業務に拘束されている状態であると判断できるためです。

  3. (3)仮眠時間が労働時間とみなされた判例

    実際に、仮眠時間が労働時間とみなされた判例を紹介します。最高裁判所による平成14年2月28日判決の割増賃金請求に関する判例です。

    ビル管理会社の従業員らは、泊まり勤務中の夜間に仮眠時間を与えられていました。しかし、泊まり勤務時の仮眠時間は労働時間に含まれず、基本的に時間外勤務手当や深夜残業手当の対象外として扱われていました。

    しかし、ビル管理会社からは仮眠時間中の対応として以下が義務付けられていました。

    • 配属先のビルからの外出は原則禁止
    • 仮眠室への在室
    • 電話や警報があった場合は必要な措置をとること

    裁判所は本件の仮眠時間について、労働からの解放が保障されているとはいえないため労働基準法における労働時間にあたるとしました。

    出典:「 平成14年2月28日最高裁判所第一小法廷判決」(最高裁判所)

2、仮眠時間が労働時間になるケース

仮眠時間が労働時間となる可能性がある仕事は、下記が挙げられます。

  • 長距離トラックドライバー
  • 警備、ビル管理
  • 消防士
  • 医療、介護

以下で具体的に解説します。

  1. (1)警報や電話に対応する必要がある場合

    仮眠中であっても警報や電話に対応する必要がある場合は、仮眠時間が労働時間とみなされる可能性があります

    たとえば、長距離トラックドライバーが配送先や上司などからの連絡に常に対応するよう義務付けられているケースです。24時間体制の電話対応が義務付けられている場合、仮眠中であっても即座に対応できるよう待機している状態と判断される可能性が高くなります。

    このような状況では仮眠中も労働から完全に解放されているとはいえないため、労働時間と判断される可能性が高いでしょう。

  2. (2)警備業務や医療関係の夜勤など業務に即座に対応しなければならない場合

    警備や消防士、医療、介護関係の夜勤では、仮眠中でも業務に即時対応しなければならないケースがあります。使用者の指揮命令下にある仮眠時間は、労働時間に含まれると判断するのが一般的です

    たとえば、施設警備員が仮眠中も緊急警報に対応しなければならない場合、仮眠時間は労働時間と判断される可能性があります。また、医療関係者が夜間の当直中に患者の急変対応を求められる場合も、同様の解釈が適用されることがあります。

    仮眠時間が労働時間になるかどうかは個別の状況によって異なるため、業務内容や対応義務について明確にすることが重要です。

3、仮眠時間で発生した未払い賃金を請求する方法

仮眠時間が労働時間に該当するにもかかわらず賃金が未払いとなっている場合は、請求が可能です。未払い賃金の請求方法について、5つのステップに分けて解説します。

  1. (1)タイムカードや勤務記録などの証拠を集める

    未払い賃金を請求するためには、まず仮眠時間が労働時間として認められることを証明する必要があります。以下のような証拠を、できるだけ多く集めましょう

    • タイムカードの写し
    • 勤務記録・日報
    • 仮眠時間中の対応記録
    • 雇用契約書・就業規則
    • 給与明細

    とくに仮眠時間中の業務内容や対応回数を具体的に記録しておけば、労働時間として認定される可能性が高まります。

  2. (2)未払い賃金を計算して内容証明郵便で請求する

    証拠を集めたら、未払い賃金がいくらになるかを計算しましょう。

    仮眠時間の未払い賃金は、通常の労働時間や時間外労働・深夜手当などの単価にもとづいて計算します。具体的には1時間あたりの賃金と仮眠時間、時間外勤務手当や深夜手当の割増率を考慮することで算出が可能です

    未払い賃金の計算ができたらその内容を文書化し、内容証明郵便で会社に請求書を送付しましょう。内容証明郵便は郵便局の有料サービスです。使用することで請求内容や送付日時の証拠を残せるため、後々の交渉や法的手続きに役立ちます。

  3. (3)会社と交渉する

    未払い賃金に関する内容証明郵便を送った後は、会社との交渉を進めます。

    会社側に未払い賃金の支払いを求める際は、請求理由を適切に説明することが重要です。仮眠時間が労働時間に含まれる根拠として、集めた証拠を提示しながら交渉しましょう。

    会社が拒否したり不誠実な対応を続けたりする可能性がある場合は、弁護士への相談がおすすめです。交渉の代理を弁護士に依頼することで、個人で請求するよりも会社側が支払いに応じる可能性が高くなります。

  4. (4)労働基準監督署へ申告する

    会社との交渉が難航した場合は、労働基準監督署への申告を検討します。

    労働基準監督署は、管轄している事業所が労働関係法令を守っているかどうかを監督する機関です。未払い賃金の問題について具体的な証拠を提示して申告すれば、労働基準監督署が会社に是正勧告を行う場合があります。

    労働基準監督署の指導によって、仮眠時間分の賃金が支払われるケースもあるでしょう。ただし、労働基準監督署の是正勧告に法的な強制力はないため、問題を解決できるとは限らない点に注意が必要です

  5. (5)労働審判や訴訟を検討する

    労働基準監督署の勧告でも解決しない場合、労働審判や訴訟など法的手続きへの移行を検討しましょう。

    労働審判は、事業主と労働者との労働トラブルを迅速かつ適正に解決するための手続きです。原則として3回以内の審理で終了するため、申し立てから決着までの期間が短いという特徴があります。

    労働審判の内容に異議が申し立てられた場合は労働審判が無効となり、自動で訴訟に移行します。

    訴訟は、公の場に訴え出て裁決を求める紛争解決手段です。訴訟では、裁判官が提出された証拠や当事者双方の主張を確認し、最終的な判決を言い渡します。

まずはお気軽に
お問い合わせください。
電話でのお問い合わせ
【通話無料】平日9:30~21:00/土日祝9:30~18:00
メールでのお問い合わせ
営業時間外はメールでお問い合わせください。

4、未払い賃金の請求を弁護士に相談するメリット

仮眠時間を含む未払い賃金を請求する際は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談する具体的なメリットは、以下のとおりです。

  1. (1)適切なアドバイスを受けられる

    弁護士は労働法や判例の知見があり、仮眠時間が労働時間に該当するかどうかについて適切なアドバイスが行えます。

    仮眠時間の未払い請求では、仮眠時間が労働時間に含まれるとみなされるかどうかが重要です。弁護士は「労働時間と主張できるか」「どのような証拠が有効か」など、労働者自身での判断が難しい問題を的確にサポートします

    仮眠時間の賃金の請求で悩んだら、まずは、労働問題の実績がある弁護士への相談がおすすめです。

  2. (2)会社との交渉を任せられる

    未払い賃金の請求において、会社との交渉は精神的な負担が大きくなりがちです。弁護士に依頼すれば、代理人として代わりに交渉を任せることができます。

    弁護士が交渉にあたると法律にもとづいた説得力のある主張が可能になり、会社側のスムーズな対応が期待できます。また、労働者本人が交渉を行わずに済むため、トラブルの回避にもつながるでしょう。

    とくに会社との関係が悪化している場合は、早めに弁護士へ相談してみてください

  3. (3)法的手続きのサポートを受けられる

    弁護士は、労働審判や訴訟に発展した場合の法的手続きにも対応します。具体的には、証拠集めや必要書類の作成、裁判所での手続き・証拠にもとづいた主張まで総合的なサポートが可能です。

    法的手続きにおいては、どのような証拠を提示し、どのような主張を行うかが結果を左右します。

    弁護士へ依頼することで未払い賃金の請求をスムーズに行えるだけでなく、手続きの負担も大幅に軽減できるでしょう

まずはお気軽に
お問い合わせください。
電話でのお問い合わせ
【通話無料】平日9:30~21:00/土日祝9:30~18:00
メールでのお問い合わせ
営業時間外はメールでお問い合わせください。

5、まとめ

電話や緊急時の対応をしなければならない仮眠時間は、労働時間に該当する可能性があります。仮眠時間が労働時間に該当するにもかかわらず賃金の支払いがない場合は、未払い賃金として請求が可能です。

未払い賃金の請求を検討している場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。未払い賃金の請求には証拠収集や会社との交渉が重要となり、弁護士はそれらの手続きについて最適なアドバイスが可能です。

仮眠時間の賃金に対して疑問がある場合は、ひとりで悩まずベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士へご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています