裁量労働制で残業が多いのは問題ない? 残業代の計算や請求方法

2025年03月17日
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裁量労働制で残業が多いのは問題ない? 残業代の計算や請求方法

令和3年6月に公表された厚生労働省の実態調査によると、裁量労働制が適用されている労働者の裁量労働制に対する意見としてもっとも多いのが「今のままでよい」で34.1%でした。しかし、「制度を見直すべき」との声も28.0%あります。

この結果から、現状に満足している人が多い一方、裁量労働制の労働者のうち3割弱の方が制度に対してなんらかの疑問や不満を抱いていることがわかります。

本記事では、裁量労働制の仕組みや残業代の計算方法・請求方法などについて、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。

出典:「裁量労働制実態調査」(厚生労働省)


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1、裁量労働制とは

そもそも裁量労働制とは、どのような制度なのでしょうか? まずは裁量労働制の仕組みや適用される職種、フレックス制との違いについて解説します。

  1. (1)裁量労働制の仕組み

    裁量労働制は、労働時間を労働者の裁量に任せ、実際に働いた時間にかかわらずあらかじめ決められた時間を働いたとみなす制度です。たとえば、みなし労働時間が9時間であった場合、8時間働いたとしても10時間働いたとしても1日の給与は9時間で計算されます。

    裁量労働制では残業代が発生しないと誤解されるケースがありますが、実際には法定労働時間を超えた分の残業代は発生します。

    労働基準法で定められた法定労働時間は、「1日8時間・週40時間」です。みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合、超えた分の残業代はあらかじめ給与に含めて計算されています。

  2. (2)裁量労働制が適用される職種や業務

    裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」の2種類があり、それぞれに職種や業務の範囲が定められています。

    専門業務型裁量労働制の対象は、業務の性質上、その遂行を労働者の大幅な裁量にゆだねる必要があり、時間配分などに関して具体的な指示が困難な仕事です。

    具体的には、以下20種類の業務になります。

    1. 1. 新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
    2. 2. 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析または設計の業務
    3. 3. 新聞もしくは出版の事業における記事の取材もしくは編集の業務または放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材もしくは編集の業務
    4. 4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
    5. 5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
    6. 6. 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等にかかわる文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
    7. 7. 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握またはそれを活用するための方法に関する考案もしくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
    8. 8. 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現または助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
    9. 9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
    10. 10. 有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
    11. 11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
    12. 12. 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
    13. 13. 銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
    14. 14. 公認会計士の業務
    15. 15. 弁護士の業務
    16. 16. 建築士(一級建築士、二級建築士および木造建築士)の業務
    17. 17. 不動産鑑定士の業務
    18. 18. 弁理士の業務
    19. 19. 税理士の業務
    20. 20. 中小企業診断士の業務


    一方、企画業務型裁量労働制の対象となるのは、業務の性質上、その遂行を労働者の大幅な裁量にゆだねる必要があり、時間配分などに関して具体的な指示をしない仕事です。

    具体的には、以下4つの要件をすべて満たした業務が対象になります。

    1. 1. 業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(たとえば対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響をおよぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
    2. 2. 企画、立案、調査および分析の業務であること
    3. 3. 業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
    4. 4. 業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること


    ただし、これらの職種や業務であっても、必ず裁量労働制が適用されるわけではありません。裁量労働制を導入するには過半数組合との協定や労使委員会の5分の4以上の多数による決議で対象業務、みなし時間、健康福祉措置、苦情処理措置等の定めなければならず、労基署への届出や労働者本人の同意も必要となります。

    出典:「裁量労働制の概要」(厚生労働省)

  3. (3)裁量労働制とフレックス制の違い

    裁量労働制とフレックス制は、始業時間や就業時間を調整できる点で共通していますが、労働時間の考え方に違いがあります。

    裁量労働制は業務の成果を重視し、労働時間を労働者の裁量にゆだねる制度です。裁量労働制では固定されたみなし労働時間をもとにして、法定労働時間を超えた分の残業代を含めた賃金が支払われます。

    一方フレックス制は、就業しなければならないコアタイムを除いて、始業と終業の時間を労働者が自由に設定できる制度です。フレックス制では、実際に勤務した時間に基づいて賃金が支払われます。

2、裁量労働制の残業代の計算方法

裁量労働制であったとしても、みなし労働時間が法定労働時間を超えた場合は残業代が発生します。また、深夜労働や法定休日出勤に関しても残業代が発生します。

以下では、裁量労働制で発生する残業代の計算方法について確認していきましょう。

  1. (1)みなし労働時間が法定労働時間を超えた場合の残業代の計算方法

    みなし労働時間が法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えると、法定労働時間を超えた時間に対して残業代が発生します。
    残業代の計算方法は、以下のとおりです。

    1時間あたりの基礎賃金 = 基礎賃金 ÷ 1か月あたりの平均所定労働時間
    残業代 = 1時間あたりの基礎賃金 × 時間外労働時間 × 1.25


    たとえば、基礎賃金36万円・平均所定労働時間160時間の場合で具体的に見ていきましょう。みなし労働時間10時間のケースの場合、法定労働時間の8時間を2時間超えているため、残業代は以下のように計算します。

    2250円 = 360000円 ÷ 160時間
    5625円 = 2250円 × 2時間 × 1.25


    なお、みなし労働時間に対する残業代はあらかじめ賃金に含まれているため、別途支払われるわけではありません。

  2. (2)深夜労働の残業代の計算方法

    22時から翌朝5時までの時間に勤務した場合は、深夜労働として25%以上の割増賃金が発生します。裁量労働制で働いている労働者であっても、深夜の時間帯に勤務した場合は、割増賃金が残業代として支払われます。

    深夜労働の残業代の計算方法は、以下のとおりです。

    深夜労働の残業代 = 1時間あたりの基礎賃金 × 深夜労働時間 × 0.25


    深夜労働の残業代はみなし労働時間の給与に含まれないため、別途手当として支払われます。

  3. (3)法定休日の残業代の計算方法

    労働基準法で義務付けられている休日を、法定休日といいます。法定休日は週1日、もしくは4週間に4日付与しなければなりません。

    法定休日に出勤をした場合は、割増賃金として35%以上が加算されます。裁量労働制であっても、みなし労働時間に追加して労働したものとして、割増賃金を上乗せした給料が支払われます。

    法定休日の割増賃金を上乗せした残業代の計算方法は、以下のとおりです。

    法定休日の残業代 = 1時間あたりの基礎賃金 × 法定休日労働時間 × 1.35


    たとえば、1時間あたりの基礎賃金が2250円で法定休日に8時間働いた場合、24300円の残業代が支払われます。

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3、会社に未払い残業代を請求する方法

裁量労働制で働いている場合でも、残業代が発生するケースはあります。残業代が発生しているにもかかわらず支払われていない場合は、会社に対して未払い残業代の請求が可能です。
もっとも、裁量労働制の導入には厳しい要件が課されていますが、要件を満たさないで導入された裁量労働制は無効であり、その場合に労働者は実時間に基づく残業代の請求が可能です。
裁量労働制が無効となり得る場合に、未払い残業代を請求するためには、次のような手順で進めていきます。

  1. (1)未払い残業代に関する証拠を集める

    実時間に基づく未払い残業代を請求する際は、まず関連する証拠を集めることが重要です。具体的には、以下のような証拠が有効となります。

    • タイムカード
    • ICカードの履歴
    • パソコンのログ
    • 業務日報
    • 給与明細書
    • 就業規則
    • 雇用契約書


    裁量労働制の運用の実態が問題となる可能性もあるため、業務に関連するメール・チャット履歴なども収集しておきましょう。

  2. (2)未払い残業代を計算する

    次に、収集した証拠をもとに未払い残業代の計算を行います。

    まず法定労働時間を超えた労働時間や、深夜労働・法定休日労働の時間を割り出します。その時間数に1時間あたりの基礎賃金と割増率を掛けることで、残業代の算出が可能です。

    残業代の割増率は就業規則で定められている場合もあるため、確認してから計算するようにしましょう。

  3. (3)支払請求書を送付する

    計算が完了したら、会社に未払い残業代の支払請求書を送付します。

    支払請求書の文面には、未払いが発生した期間・未払いの金額・支払方法・支払期限などを記載します。請求日と請求先・請求元の情報も忘れずに記載するようにしましょう。

    また、請求後も未払いが続いた場合の対応(法的手段など)についても記載しておくのが一般的です。

  4. (4)内容証明郵便を利用する

    支払請求書は、内容証明郵便を利用して送付することをおすすめします

    内容証明郵便とは、いつ誰がどのような内容の文書を送付したのかを、郵便局が証明してくれるサービスです。

    通常の郵送料金に追加して加算料金を支払う必要がありますが、後日トラブルに発展した場合の証拠として利用できます。

  5. (5)労働基準監督署に申告する

    支払請求書を送付しても未払い残業代が支払われない場合は、労働基準監督署への申告を検討します。

    労働基準監督署は、管轄の事業所が労働関係法令を順守しているかどうかを監督する機関です。残業代の未払いは労働基準法違反にあたる行為のため、労働基準監督署の調査や是正勧告の対象となります。

    労働基準監督署に申告することで、是正勧告を受けた会社から未払い残業代が支払われる可能性もあるでしょう。

4、裁量労働制の未払い残業代について弁護士へ相談するメリット

裁量労働制の未払い残業代に関する問題では、法的な知識が必要となる場合もあります。また、会社側と直接交渉することに抵抗を感じる方もいるでしょう。

そのような場合は、ひとりで抱え込まずに、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士への相談によって得られる主なメリットは、以下のとおりです。

  1. (1)証拠集めのアドバイスを得られる

    弁護士に相談することで、未払い残業代の証拠集めのアドバイスを得ることができます。

    会社に裁量労働制の未払い残業代を請求するには、証拠の収集が非常に重要です。残業代請求に必要な証拠はなにか、どのように集めればいいのか不安に感じたときは、弁護士に相談するのをおすすめします。

    有効な証拠を得られれば、その後の交渉や手続きがスムーズに進められるでしょう

  2. (2)会社側との交渉を任せられる

    弁護士は、会社側との交渉を代理できます。

    残業代の支払いに応じてくれない会社と労働者が直接交渉するのは、精神的なストレスが伴うものです。また、法的な知識や交渉力が求められるケースもあるでしょう。

    弁護士に交渉の代理を依頼することで、法律の観点から正当な主張を行えるため、より有利な条件での解決が期待できます。

  3. (3)労働審判や通常訴訟の手続きのサポートが受けられる

    交渉が難航し、労働審判や通常訴訟の手続きに移行した場合も、引き続き、弁護士に手続きを依頼することが可能です。

    特に相手方も弁護士を立てている場合、法的知識と交渉力の差があると、不利な交渉を強いられる可能性があります。労働問題の実績がある弁護士から適切なサポートを受けることで、申立て準備から証拠の提示、法廷での弁護に至るまで安心して進めることができるでしょう

5、まとめ

裁量労働制では、みなし労働時間が法定労働時間を超えた場合の残業代は、「固定残業代」や「職務手当」などの形であらかじめ給与に含まれている必要があります。また、裁量労働制であっても深夜労働や法定休日出勤に関しては別途残業代が発生します。

もし残業代が支払われていない場合、未払い残業代の請求ができる可能性があります。ただし、証拠集めや会社との交渉をご自身で行うのは困難なケースもあるため、弁護士への相談をおすすめします。

裁量労働制で残業が多く悩んだら、お早めにベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています