残業代をボーナスに反映するのは違法|残業代とボーナスの関係性とは
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長時間労働が疑われるとして令和4年(2022年)度に山梨県内の労働基準監督署が監督指導を行った447事業場のうち、賃金不払い労働があったものは27事業場でした。
残業代をボーナスに含めて支給するのは違法です。残業代の支給時期や金額については、労働基準法で厳格なルールが定められており、ボーナスに含めての支給は認められていません。残業代とボーナスが区別されずに支給されている場合は、弁護士に相談して未払い残業代請求を検討しましょう。
本記事では、残業代をボーナスに反映する(含める)のが違法である理由や、未払い残業代の計算方法・請求方法などをベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」(山梨労働局)
1、残業代をボーナスに反映する(含める)のは違法
残業代をボーナスに含めて支払うことは、労働基準法上認められていません。残業代とボーナスは別物なので、明確に区別して支払う必要があります。
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(1)残業代とボーナスは別物|明確に区別しなければならない
残業代は、労働者の時間外労働などに対して、時間に応じて法律上支払う必要がある賃金です。
これに対してボーナスは、労働者の貢献度や会社の業績などに応じて、雇用契約や賞与規程などに基づき支払われます。
なかには、「残業代はボーナスで支払う」などと会社から言われたことがある方もいるかもしれません。しかし上記のとおり、残業代とボーナスは法律上の位置づけが異なります。そのため会社側は、残業代をボーナスに含めて支給することはできません。 -
(2)残業代は毎月支払わなければならない|ボーナスの時期にまとめて支給するのはNG
残業代は、給与の締め日までに発生している分を、対応する給与支払日までに全額支払わなければなりません(労働基準法第24条)。
したがって、残業代を支給せずにためておいて、ボーナスの時期にまとめて支給するのは違法です。 -
(3)残業代は最低割増率が決まっている|会社が勝手に決めてはならない
ボーナスの金額の決定については、会社の広い裁量が認められています。
これに対して残業代については、労働基準法によって最低割増率が決まっています。残業代はボーナスとは異なり、会社が裁量によって勝手に減らすことは認められません。
最低割増率以上の残業代を支払っていることを明確化するためにも、会社は残業代とボーナスを区別して支払う必要があります。
2、ボーナスと残業代の関係性
残業代の未払いがないか計算する前に、ボーナスと残業代の関係性について、知っておくべき重要なポイントを解説します。
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(1)ボーナスの支給方法によっては残業代の計算に影響がある
ボーナスの支給方法によっては、残業代の計算時にボーナスが含まれることもあるため、注意が必要です。
たとえば、会社の業績や社員の成果などによって支給額が連動するボーナスの場合、支給されたボーナスは残業代の計算に含みません。
一方、年俸制などで、支給されるボーナスが固定額の場合、ボーナスを含んで残業代を計算します。なお、固定額で支給されるボーナスは定義上、「賞与」ではありませんが、一般的には年俸額のうち、一定額をボーナス時期にまとめて支給することで、賞与として扱われています。
たとえば、年俸800万円(16か月分)のうち、ボーナスが200万円(4か月分)固定で支給されているケースを考えてみましょう。
この場合、残業代の計算で使用する基礎賃金(※詳しくは後述します)としては、ボーナスを除いた600万円で計算するのではなく、ボーナスを含んだ800万円で計算します。
800万円を1年間(12か月)受け取っているので、1か月分の賃金は約66万6000円ということになります。
もし会社が年俸額からボーナス分を差し引いて残業代の計算をしていた場合、実際よりも支給される残業代が少なくなっているため、未払い残業代として請求することが可能です。 -
(2)残業代を多く支払ったからという理由で、ボーナスを減らすのはNG
ボーナスの支給方法に関係なく、人件費を調整する目的でボーナスを減らす会社があるようです。
ボーナスの支給額については、会社に比較的広い裁量が認められているとはいえ、合理的な理由のない減額は認められません。
もし、「残業代を多く支払ったから」などの不合理な理由でボーナスを減額された場合は、会社に対して適正額との差額の請求も検討しましょう。
お問い合わせください。
3、残業代の種類・割増賃金率・計算方法
残業代がボーナスに含まれているか確認するには、残業代がどのようにして支給されているのか理解しておく必要があります。詳しく説明しましょう。
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(1)法定労働時間と所定労働時間
そもそも労働時間は、原則として1日に8時間、1週間に40時間が上限と、労働基準法で定められています。この上限までの労働時間を「法定労働時間」と呼び、法定労働時間を超えた労働時間には、通常(基礎賃金)より割り増した賃金が支給されます。
一方で、会社が定める労働時間(所定労働時間)が1日7時間など、法定労働時間を下回っているケースもあります。こうした会社の場合、所定労働時間は超えていて、法定労働時間は超えない時間の労働(法内残業)が発生する場合があります。
上記のケースにおいて1時間半残業をした場合を考えてみましょう。
1時間は法定労働時間内に行われた残業ということになり、この時間は通常から割り増しのない賃金が支給されます。
一方、30分は法定労働時間を超えているため、割り増しされた賃金が支給されます。 -
(2)残業代の種類と割増賃金率
残業代は「法定内残業手当」「時間外手当」「休日手当」「深夜手当」の4つに分けられます。そのうち時間外手当・休日手当・深夜手当には、通常(基礎賃金)よりも割り増しした賃金が支給され、割り増しされる具合(割増賃金率)は、基礎賃金の何%以上と、それぞれ定められています。
残業代の種類 発生条件 割増賃金率 法定内残業手当 所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない残業(=法定内残業)をした場合 割り増しなし 時間外手当 法定労働時間を超える残業(=時間外労働)をした場合 通常の賃金に対して25%以上
※月60時間を超える部分については、通常の賃金に対して50%以上休日手当 法定休日に労働(=休日労働)した場合 通常の賃金に対して35%以上 深夜手当 午後10時から午前5時までに労働(=深夜労働)した場合 通常の賃金に対して25%以上 ※深夜手当の割増賃金率は、時間外手当・休日手当の割増賃金率と重複して適用されます。
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(3)残業代の計算方法
残業代の計算の流れについて紹介しましょう。
① 各種手当を除外した、1か月の総賃金を計算する
1か月で支給された総賃金から、以下のような時間外手当、休日手当、深夜手当などを除いた金額を出しましょう。<総賃金から除外される手当>- 時間外手当、休日手当、深夜手当
- 家族手当(扶養人数に応じて支払うもの)
- 通勤手当(通勤距離などに応じて支払うもの)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うもの)
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
なお先述のとおり、年俸制の会社に勤めている場合、ボーナスを業績連動ではなくあらかじめ固定支給されている場合があります。そのような場合はボーナスを含んだ年俸額を12か月分として、1か月分を計算するようにしましょう。
② 月平均所定労働時間・1時間当たりの基礎賃金を計算する
1か月の総賃金を算出したら、次に月平均所定労働時間と、1時間当たりの基礎賃金を出しましょう。計算式は以下のとおりです。- 月平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12か月
- 1時間当たりの基礎賃金=1か月の総賃金(各種手当を除く)÷月平均所定労働時間
③ 残業代を計算する
最後に残業代を計算しましょう。計算式は以下です。残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間 -
(4)残業代の計算例
上記の計算式を踏まえ、計算方法の例を紹介します。
(例)- 1か月の総賃金:30万円
- 月平均所定労働時間:150時間
- 法定内残業:20時間
- 時間外労働:30時間
- 休日労働:10時間(うち深夜労働2時間)
1時間当たりの基礎賃金
30万円(1か月の総賃金)÷150時間(月平均所定労働時間)
=2000円
法定内残業手当(割増賃金率:なし)
2000円(1時間当たりの基礎賃金)×20時間(法定内残業時間)
=4万円
時間外手当(割増賃金率:125%)
2000円(1時間当たりの基礎賃金)×125%(割増賃金率)×30時間(時間外労働時間)
=7万5000円
休日手当(割増賃金率:135%)
2000円(1時間当たりの基礎賃金)×135%(割増賃金率)×8時間(休日労働時間)
=2万1600円
休日に行った深夜手当(割増賃金率:休日135%+深夜125%=160%)
2000円(1時間当たりの基礎賃金)×160%(割増賃金率)×2時間(休日の深夜労働時間)
=6400円
残業代(合計)
4万円+7万5000円+2万1600円+6400円
=14万3000円
4、未払い残業代の請求方法と期限
未払い残業代請求は、交渉・労働審判・訴訟などの手続きによって行います。残業代請求権には、消滅時効があるため、早めに請求へ着手しましょう。
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(1)未払い残業代の請求方法|交渉・労働審判・訴訟など
未払い残業代の請求方法としては、主に交渉・労働審判・訴訟が挙げられます。基本的には交渉から行い、会社と合意できなかった場合は労働審判や訴訟の手続きを行います。
① 交渉
会社と話し合い、未払い残業代の精算についての合意を目指します。まずは未払いの残業代を計算し、タイムカードなど残業の根拠がある場合は用意しましょう。そのうえで、在職中の場合は関係悪化を防ぐために話し合いから始める方もいますが、主に退職後の場合は内容証明郵便で残業代の請求を行います。内容証明郵便とは、誰から誰宛てに、いつ差し出された文書なのかを郵便局が証明するサービスです。内容証明郵便は手書きでも作成できますが、字数制限などいくつかルールがあるため、弁護士に相談することをおすすめします。
② 労働審判
地方裁判所にて非公開で行われる、労使紛争の解決手続きです。裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、調停または労働審判によって紛争解決を図ります。
審理が原則として3回以内で終結するため、訴訟よりも迅速な解決を期待できるのが特徴です。ただし、労働審判に対して異議が申し立てられたときは、自動的に訴訟へ移行します。
③ 訴訟
裁判所の公開法廷で行われる紛争解決手続きです。証拠等によって残業の事実などを立証すれば、裁判所が会社に対して未払い残業代の支払いを命ずる判決を言い渡します。 -
(2)未払い残業代請求に役立つ、残業の証拠例
未払い残業代請求を成功させるためには、残業をしたことに関する証拠を確保することが大切です。具体的には、以下のような証拠が残業の事実の立証に役立ちます。
- タイムカードや勤怠管理システムの記録
- オフィスの入退館記録
- 交通系ICカードの乗車記録
- タクシーの領収書
- 業務に関するメール等の送受信記録
残業に関する証拠収集の方法がわからない場合は、弁護士にご相談ください。
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(3)未払い残業代請求の期限(時効)に注意が必要
残業代請求権は、権利を行使できるときから3年が経過すると時効によって消滅します(労働基準法第115条、附則第143条第3項)。権利を行使できるときとは、給料日の翌日のことです。
残業代請求権の時効消滅を阻止するためには、上記の期間が経過する前に、会社に対する内容証明郵便の送付・労働審判の申し立て・訴訟の提起などを行う必要があります。
残業代請求には請求時効がありますので、未払い残業代が発生している可能性があるときは、早い段階で弁護士に相談して、残業代請求の準備を始めましょう。
5、まとめ
残業代をボーナスに含めて支給することは、労働基準法違反に当たる可能性が高いです。
残業代の支給について不適切な運用がなされている場合は、未払い残業代が発生している可能性があります。弁護士に相談して、会社に対する残業代請求の可否を検討しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、残業代請求に関する労働者のご相談を随時受け付けております。
労働問題に関して豊富な経験を有する弁護士が、労働基準法のルールに従って正しく残業代を計算した上で、会社に対して適正額の支払いを求めます。必要な手続きの大部分を弁護士が代行いたしますので、安心してご依頼いただけます。
残業代がボーナスに含めて支給されているなど、残業代について会社が不適切な運用をしていると思われる場合には、お早めにベリーベスト法律事務所 甲府オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています