残業代が出ないのはおかしいと感じたときに確認すべき法律と請求方法

2024年06月27日
  • 残業代請求
  • 残業代
  • おかしい
残業代が出ないのはおかしいと感じたときに確認すべき法律と請求方法

令和4年度に山梨県内の労働基準監督署が監督指導を行った447事業場のうち、賃金不払残業があったものは27事業場でした。

残業をした労働者に対して、会社が残業代(残業手当)を正しく支払わないことは労働基準法違反です。もし適正額の残業代が支払われないならば、弁護士に相談して速やかに請求しましょう。

本記事では、残業代が支払われずおかしいと感じた場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代に関する法律のルール|未払いは違法

残業をした労働者に対する残業代の支払いは、労働基準法によって義務付けられています。したがって、正しい残業代を支払わないこと(サービス残業を命じること)は違法です。

  1. (1)残業の種類と残業代の割増率

    残業には、以下の種類があります。法定内残業を除き、残業代については一定の割増率が適用されます

    残業の種類 残業の概要 割増率
    法定内残業 所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない残業 割増なし
    時間外労働 法定労働時間を超える残業 通常の賃金に対して25%以上
    ※月60時間を超える部分については、通常の賃金に対して50%以上
    休日労働 法定休日における労働 通常の賃金に対して35%以上
    深夜労働 午後10時から午前5時までに行われる労働 通常の賃金に対して25%以上

    ※深夜労働の割増率は、法定内残業・時間外労働・休日労働の割増率と重複して適用されます(例:時間外労働(月60時間以内)かつ深夜労働の場合、通常の賃金に対して50%以上の割増賃金が支払われます)。

  2. (2)残業代の計算方法

    残業代の金額は、以下の式によって計算します。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数

    1時間当たりの基礎賃金=1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間

    <総賃金から除外される手当>
    • 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
    • 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
    • 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
    なお、手当の内容によっては除外されない場合もあります。

    月平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12か月


    前述のとおり、残業代の割増率は残業の種類によって異なります。
    したがって、残業の種類ごとに残業時間を集計した上で、上記の式を適用して残業代を計算します。

  3. (3)残業代の計算例

    以下の設例について、残業代を計算してみましょう。

    <設例>
    1か月の総賃金:35万円
    月平均所定労働時間:175時間
    法定内残業:20時間
    時間外労働:30時間
    休日労働:10時間(うち深夜労働2時間)

    1時間当たりの基礎賃金
    =35万円÷175時間
    =2000円

    法定内残業の残業代
    =2000円×20時間
    =4万円

    時間外労働の残業代
    =2000円×125%×30時間
    =7万5000円

    休日労働の残業代
    =2000円×(135%×8時間+160%×2時間)
    =2万8000円

    残業代(合計)
    =4万円+7万5000円+2万8000円
    =14万3000円
  4. (4)残業代を支払わない会社に対する罰則等

    残業代を支払わない会社は、労働基準監督官による臨検(立ち入り調査)を経て是正勧告を受けることがあります。

    また、残業代の未払いは刑事罰の対象です。
    違反者に対しては「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」、会社に対しても「30万円以下の罰金」が科されます(労働基準法第119条第1号、第121条)。

2、働き方別|未払い残業代が発生するケース

残業代が発生しないと思われがちな以下の働き方についても、実際には残業代が発生することがあります。



これらの働き方をしている方が、残業代の支給額について疑問を感じた場合には、一度弁護士にご相談ください

  1. (1)固定残業代制(みなし残業時間制)の場合

    「固定残業代制(みなし残業時間制)」は、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ定められた残業代を支給する制度です。

    固定残業代制を導入する企業では、あらかじめ固定残業時間を定める必要があります。固定残業時間を超過する残業に対しては、残業代を支払わなければなりません。

    しかし、固定残業代を支給すれば、どんなに長時間残業をさせても残業代を支払わなくてよいと誤解している企業もあるようです。
    固定残業代制を理由に残業代が一切支払われていない場合は、未払い残業代が生じている可能性があります

  2. (2)フレックスタイム制の場合

    フレックスタイム制は、労働者が始業・終業の時刻を裁量的に決められる制度です。

    フレックスタイム制が適用される労働者に対しても、企業は通常のルールに従って残業代を支払う必要があります。したがって、所定労働時間を超えて働いた場合や、休日・深夜に働いた場合には、残業代が発生します。

    しかし、フレックスタイム制を採用する企業では、労働時間の管理がおろそかになりがちであり、結果的に残業代が正しく支払われないケースが多いです。
    残業時間に比べて支給額が少ない場合には、未払い残業代が生じている可能性があります。

  3. (3)裁量労働制の場合

    裁量労働制は、業務の進め方や時間配分を労働者が裁量的に決められる制度です。労働基準法では、2種類の裁量労働制(専門業務型・企画業務型)が認められています。

    裁量労働制で働く労働者にはみなし労働時間が適用されるため、基本的には残業代が発生しません。

    ただし、みなし労働時間が法定労働時間を超えるときは割増賃金(25%以上)が適用されるほか、深夜労働については深夜手当(25%以上)を支払う必要があります
    これらの運用が適切に行われていない場合には、未払い残業代が生じている可能性があります。

  4. (4)管理職の場合

    労働基準法上、「管理監督者」に対しては残業代の支払いが不要とされています(労働基準法第41条第2号)。

    ただし、管理監督者に当たるのは、権限・裁量・待遇などの観点から経営者と一体的な地位にある労働者に限られます
    管理監督者に当たらない管理職が残業したときは、一般の従業員と同様に残業代が発生します。

    一般の従業員と権限・裁量・待遇などがほとんど変わらない管理職を、一律に管理監督者として取り扱い、残業代を支給しない企業も少なくありません。このような企業では、未払い残業代が生じている可能性が高いと考えられます。

3、会社に未払い残業代を請求する方法

会社に対して未払い残業代を請求する際には、以下の流れで対応しましょう。

① 残業をしたことの証拠を集める
残業の事実を立証し得る証拠を、できる限り豊富に確保します

(例)
  • 勤怠管理システムやタイムカードの記録
  • オフィスの入退館履歴
  • 交通系ICカードの乗車履歴
  • 業務用メールの送受信履歴
  • 業務日誌
など


② 未払い残業代を計算する
残業時間を種類ごとに集計した上で、前述の式を用いて未払い残業代の総額を計算します。

③ 会社と交渉する
会社との間で未払い残業代の精算方法を話し合います。合意に至ったら書面を締結し、その内容に従って未払い残業代の支払いを受けましょう。

④ 労働審判を申し立てる
会社との協議がまとまらないときは、裁判所に労働審判を申し立てることが考えられます。
労働審判では、裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、調停または労働審判によって労使紛争の解決を図ります。

⑤ 訴訟を提起する
未払い残業代請求については、裁判所に訴訟を提起することもできます。また、労働審判に対して異議が申し立てられたときは、自動的に訴訟へ移行します。
訴訟で残業代請求権の存在を立証できれば、会社に対して残業代の支払いを命ずる判決が言い渡されます。
判決が確定すると、その内容に従って、会社の財産に対して強制執行を申し立てることができます。

4、残業代が支払われずおかしいと感じたときの相談先

残業代が一切支払われていない、または残業代の額が少ないと感じている方は、以下の窓口へ相談しましょう。特に、未払い残業代請求について具体的なサポートを受けたい方は、弁護士へのご相談をおすすめします

  1. (1)労働条件相談「ほっとライン」

    専門知識を持つ相談員に、未払い残業代請求の方法や注意点などについて電話で相談できます。ただし、相談員からのアドバイスのみとなるため、実際に残業代請求に向けて証拠を集めたり、会社との交渉を行ったりする際には、自らが動く必要があります。

  2. (2)労働基準監督署

    労働基準法の遵守状況などについて、各事業場を監督する行政機関です。労働基準法違反の残業代未払いを申告すれば、事業場に対して臨検(立ち入り調査)や是正勧告などを行ってもらえることがあります。会社が違法行為を是正した結果、副次的な効果として未払い残業代が支払われる可能性がありますが、労働基準監督署はあくまで会社が労働基準法令を遵守しているかどうかを監督する機関です。会社が行政指導を受けても、従業員に対して未払い残業代を支払わなければ、改めて自ら未払い残業代請求を行う必要があります。

  3. (3)弁護士

    紛争解決を取り扱う法律の専門家です。相談料や弁護士費用はかかりますが、未払い残業代請求について、残業代を正確に計算したり、弁護士を通じて証拠収集を行ったりすることが可能です。会社との交渉も弁護士に一任することができますし、労働審判・訴訟に発展した際にも対応を全面的に依頼できます。残業代請求には時効が存在しますので、未払い残業代については弁護士に相談されることをおすすめします

5、まとめ

残業代の支払いは労働基準法の義務です。残業代が正しく支払われていない、金額が少なすぎておかしいと感じている方は、速やかに弁護士へ相談しましょう。

ベリーベスト法律事務所は、未払い残業代請求に関する労働者のご相談を随時受け付けております。経験豊富な弁護士が親身になってご対応いたしますので、お気軽にベリーベスト法律事務所 甲府オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています