能力不足を理由にサービス残業は違法? 未払い残業代を請求する方法
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「能力不足なのだから残業をして当たり前!」などと会社に言われてしまい、残業代の出ないサービス残業をしているという方もいるかもしれません。
しかし、残業時間に応じた残業代を請求するというのは労働者として当然の権利ですので、能力不足があったとしてもサービス残業を強要するのは違法です。このような違法なサービス残業があった場合には、しっかりと会社に対して、残業代を請求していく必要があります。
本コラムは、能力不足を理由とするサービス残業の違法性や未払い残業代を請求する方法について、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
1、能力不足を理由とするサービス残業は違法
能力不足を理由にサービス残業を行わせるのは、労働基準法に反する違法な行為になります。
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(1)そもそもサービス残業とは
サービス残業とは、残業をしたにもかかわらずその分の賃金(残業代)が支払われないことをいいます。
サービス残業に該当する具体例としては、以下のようなものが挙げられます。- 会社から定時過ぎに働いても残業代は出ないといわれている
- 上司や先輩がサービス残業をしているため、自分だけ残業代を請求するのは気がひける
- 残業代を請求すると、時間内に仕事ができず能力不足と思われるため、あえて申告しない
残業をすれば、本来は残業時間に応じた残業代が支払われますが、会社によっては、所定労働時間外の労働を残業と認めなかったり、労働者自ら残業を申告しないなどの理由でサービス残業が発生することがあります。
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(2)能力不足を理由にサービス残業させるのは違法
労働基準法では、労働者が時間外労働、深夜労働、休日労働をした場合には割増賃金を支払わなければならないと定められています(労働基準法第37条)。すなわち、使用者には、残業時間に応じた残業代を支払う法律上の義務が課されていることになります。
労働者の能力不足により仕事が終わらなかったとしても、会社の指示により残業させたのであれば、残業代を支払わないことは労働基準法に反する違法な行為となります。いかなる理由であったとしても、サービス残業が正当化されることはありません。 -
(3)1日8時間以上働いているのに残業代が支払われていない場合は要注意
労働基準法では、1日8時間を法定労働時間と定めており、36協定の締結・届出をすることで法定労働時間を超えて労働者を働かせることが可能になります。ただし、法定労働時間を超えた時間外労働に対しては、所定の割増賃金率により増額した割増賃金の支払いが必要になります。
そのため、1日8時間以上働いているのに会社から残業代が支払われていない状況は、違法なサービス残業をさせられている可能性がありますので注意が必要です。
2、能力不足を理由に発生している未払い残業代を請求する方法
能力不足を理由としてサービス残業をさせられている方でも、以下のような方法により未払い残業代を請求することができます。
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(1)残業代に関する証拠を残す
能力不足を理由にサービス残業をさせられた労働者が残業代請求をするためには、まずは、残業代に関する証拠を集めなければなりません。サービス残業では、タイムカードに残業をした記録が残っていないことも多いため、残業時間の立証できないケースも少なくありません。そのため、将来の残業代請求に備えて、以下のような証拠を残しておくようにしましょう。
- 業務日報
- パソコンのログ記録
- オフィスの入退室記録
- 毎日職場のメールやチャットで始業時と終業時にメッセージを送る
- 家族に帰宅する旨の連絡をしたLINE
- 残業時間を記録したメモ
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(2)残業代の計算を行う
残業代に関する証拠が集まったら、その証拠に基づいて残業代の計算を行います。基本的な残業代の計算式は、「1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間」になりますが、各項目の内容は非常に複雑なものになっています。
知識や経験がない方では、正確に残業代を計算することは難しいため、残業代計算は弁護士に任せるのがおすすめです。 -
(3)内容証明郵便を送り会社と交渉をする
残業代計算ができたら、会社との交渉を開始します。いきなり会社と話し合いを始めることも可能ですが、一般的には、内容証明郵便を利用して、未払い残業代の支払いを求める通知書を送ります。これは、残業代の時効をストップさせるという効果もありますので、時効が迫っているときには必ず行う必要があります。
内容証明が届いた後は、会社との話し合いにより未払い残業代の支払いを求めていきます。ただし、違法なサービス残業を繰り返しているような会社では、まともに話し合いに応じてくれないこともあります。その場合には、早めに交渉を切り上げて、以下のような法的手段をとるようにしましょう。 -
(4)労働審判を申し立てる
労働審判とは、労働者と使用者との間の労働問題を実情に即して、迅速かつ適正に解決することができる裁判所の紛争解決制度です。原則として3回以内の期日で終了しますので、訴訟に比べて迅速にトラブルを解決することができますので、訴訟提起前に、労働審判を利用してみてもよいでしょう。
ただし、労働審判に対して異議申し立てがあった場合には、通常の訴訟手続きに移行してしまいます。そのため、会社側の態度によっては、労働審判を経ることで解決までの期間が長くなってしまうこともありますので注意が必要です。 -
(5)訴訟を提起する
会社との話し合いや労働審判で解決しない場合には、最終的に裁判所に訴訟を提起することになります。
訴訟になると労働者個人で対応するのは難しいため、専門家である弁護士のサポートを受けるようにしましょう。
3、未払い残業代はいつまで請求できるのか?
サービス残業で未払い残業代がある場合には、時効に注意が必要です。
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(1)未払い残業代の時効とは
能力不足を理由としてサービス残業をさせられている場合、そのまま残業代を請求せずに放置していると、時効により残業代を請求する権利が消滅してしまう可能性があります。
残業代請求権の時効は、3年と定められています。
給料日の翌日から時効のカウントはスタートしますので、サービス残業が繰り返されているようなケースでは、時間がたつにつれてどんどん残業代が失われてしまう可能性もあります。そのため、会社に対して未払い残業代の請求をするなら、早めに行動することが大切です。 -
(2)未払い残業代の時効が迫っているときの対処法
残業代の時効が迫っているという場合でも諦める必要はありません。時効には、時効の完成猶予や更新といった、時効期間をストップまたはリセットすることができる制度が設けられています。
たとえば、以下のような手段により時効の完成を阻止することができます。- 内容証明郵便により未払い残業代の請求を行う
- 会社から残業代の一部の支払いを受ける
- 会社に残業代の支払い義務を認めてもらう
- 労働審判の申し立て
- 訴訟の提起
どのような手段を講じるべきかについては、具体的な状況によって異なりますので、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
4、未払い残業代の請求や労働問題は弁護士にご相談を
未払いの残業代請求や労働問題でお困りの労働者の方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)未払い残業代請求をサポートできる
未払い残業代を請求するためには、証拠収集や残業代計算などの複雑な手続きが必要になります。証拠収集や残業代計算に手間取っていると、時効により大切な未払い残業代が失われてしまうおそれもあります。
弁護士であれば、残業代請求にどのような証拠が必要になるかを熟知していますので、適切な証拠収集をサポートできます。また、迅速かつ正確に残業代計算を行うことができますので、時効にかかるリスクも最小限に抑えることができます。
不慣れな方では、残業代請求に対応するのは困難ですので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。 -
(2)能力不足やサービス残業の拒否を理由とする不当解雇を争うことができる
労働者に能力不足があったとしても、そのことだけを理由として解雇が認められるケースはほとんどありません。会社から能力不足を理由とする解雇だと言われると、自分にも落ち度があったとして受け入れてしまう方も多いですが、不当解雇の可能性がありますので、しっかりと争っていく必要があります。
また、サービス残業を拒否したことを理由に解雇することも不当解雇にあたります。サービス残業を命じるのは違法な業務命令になりますので、そもそも労働者が従う必要がないからです。
このような不当解雇があった場合には、弁護士が労働者の代理人として会社と交渉したり、労働審判や裁判の対応をすることで、解雇が無効になる可能性もあります。会社からの解雇に納得できないときは、まずは弁護士にご相談ください。
5、まとめ
労働者に能力不足があったとしても、それを理由としてサービス残業を強要してよいことにはなりません。サービス残業は、労働基準法に反する違法な行為になりますので、労働者としては、会社に対して、未払い残業代の請求をしていくようにしましょう。
残業代請求にあたっては弁護士のサポートが必要になりますので、まずはベリーベスト法律事務所 甲府オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています