食品製造業は残業が多い? 考えられる理由と未払い残業について
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2022年度に山梨県内の労働基準監督署が監督指導を行った447事業場のうち、違法な時間外労働があったものは206事業場でした。
食品製造関連の工場労働者は、労働時間が長くなりがちです。企業側の労働基準法に関する無理解などが原因で、未払い残業代が生じているケースも少なくありません。食品製造業で働く労働者の方は、弁護士に相談して、未払い残業代を請求できるかどうか確認しましょう。
本記事では、食品製造業において労働者の残業が多い理由や未払い残業代が発生する理由、未払い残業代の請求方法などをベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」(山梨労働局)
1、食品製造業(工場)では、なぜ残業が多いのか?
食品メーカーの工場では、労働者の残業が多くなる傾向にあります。
残業が増える理由はさまざまですが、一例として以下の理由が挙げられます。
少子化に伴い若年労働者が不足した結果、1人の労働者が担う仕事量・作業量が増えていることが、残業増加の一因になっています。
② 職場の雰囲気
残業が当たり前と考える雰囲気が職場に広まっている場合は、実際の残業時間も多くなりがちです。
③ 過剰な受注
工場全体での稼働能力を十分に踏まえることなく、過剰な量の仕事を受注してしまうと、労働者の残業によってカバーせざるを得なくなります。
④ 労働時間の長さを重視する人事評価システム
人事評価において、労働時間が長い労働者が高く評価される傾向にある場合は、残業時間が増えやすいです。
2、食品製造業で未払い残業代が発生する主な理由
食品製造業においては、残業時間が長くなりがちな一方で、それに対する適切な残業代が支払われていないケースがよくあります。
食品製造業において未払い残業代が発生するのは、使用者の労働基準法に関する無理解が主な原因です。一例として、以下のような理由で残業代の未払いが発生しています。
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(1)管理職が一律「管理監督者」として取り扱われている
食品製造業を営む企業では、工場長などの管理職を一律「管理監督者」として取り扱い、残業代を一切支払わないケースがあります。
労働基準法上、管理監督者に対しては労働時間等の規定が適用されないため、深夜割増を除く残業代を支払う必要がありません(同法第41条第2号)。
ただし、管理監督者に該当するのは、経営者と一体的な立場にあり、自己の勤務時間に対する自由な裁量を有し、その地位に相応しい処遇を受けている労働者のみです。経営者と一体的な立場にあるかどうかは、職務内容・権限・待遇などの観点から総合的に判断されます。
工場長などの管理職は、現場管理などを任せられているに過ぎず、権限や待遇については一般の労働者と大差がないケースが多いです。このような場合には、管理職であっても管理監督者に当たらず、残業代が発生します。
したがって、管理職の残業代を一律不支給としている工場では、未払い残業代が発生している可能性が高いです。 -
(2)固定残業代制が誤った形で運用されている
食品製造業を営む企業の中には、「固定残業代制」を採用しているところがたくさんあります。固定残業代制とは、固定残業時間に対応する残業代を、毎月必ず支給する制度です。
固定残業代制を採用する場合は、あらかじめ固定残業時間を定めた上で、それを超過した分については別途残業代を支払わなければなりません。
しかし、「固定残業代制を採用すれば、残業時間にかかわらず追加で残業代を支払う必要はない」と誤解している企業が多数見受けられます。このような企業では、未払い残業代が発生している可能性が高いでしょう。 -
(3)勤務時間が自己申告制になっている
タイムカードや勤怠管理システムを導入しておらず、勤務時間を労働者の自己申告に委ねている工場では、労働時間の管理が適切に行われていないケースが大半です。このような工場で働く労働者については、未払い残業代が発生している可能性が濃厚といえます。
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(4)上司の指示で不正打刻をさせられている
残業が長時間に及びがちな工場では、上司の指示によって実際の退勤よりも早い時間に退勤の打刻をさせられているケースもあるようです。このような不正打刻が行われている場合には、未払い残業代が発生しています。
3、未払い残業代を請求する方法・手順
未払い残業代が発生していると思われる場合は、以下の手順で使用者に対する請求を行いましょう。
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(1)1時間当たりの基礎賃金を求める
まずは以下の式を用いて、1時間当たりの基礎賃金を計算します。
1時間当たりの基礎賃金
=1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間
<総賃金から除外される手当>- 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
- 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
- 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
<月平均所定労働時間の求め方>
月平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12か月
※所定労働時間:労働契約や就業規則で定められた労働時間
(例)
1か月間に上記の各手当を除いて40万円の賃金が支給され、月平均所定労働時間が160時間の場合
→1時間当たりの基礎賃金は2500円(=40万円÷160時間) -
(2)残業時間を集計し、その証拠を確保する
残業時間は、以下の種類に区別して集計します。
① 法定内残業
→所定労働時間を超え、法定労働時間※を超えない部分の労働時間
※法定労働時間:原則として1日8時間、1週40時間
② 時間外労働
→法定労働時間を超える部分の労働時間
③ 休日労働
→法定休日※における労働時間
※法定休日:労働基準法第35条によって付与が義務付けられた休日。原則として1週間のうち1日のみ
④ 深夜労働
→午後10時から午前5時までの労働時間
また、残業の証拠もできる限り確保しておきましょう。
(例)- 勤怠管理システムの記録
- 交通系ICカードの乗車履歴
- 業務日誌
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(3)未払い残業代の金額を計算する
以下の式を用いて、未払い残業代の金額を計算します。
- 残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数
- 未払い残業代=残業代-実際の支給額
<割増率>
法定内残業 通常の賃金 時間外労働 通常の賃金×125%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%休日労働 通常の賃金×135% 深夜労働 通常の賃金×125% 時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160%
(例)- 1時間当たりの基礎賃金が2500円
- 時間外労働が45時間(うち深夜労働が5時間)
- 休日労働が15時間
残業代
=2500円×(125%×45時間+150%×5時間+135%×15時間)
=21万円 -
(4)会社に対して請求を行う
残業代の金額が計算でき、残業の証拠も確保したら、会社に対して未払い残業代を請求しましょう。
まずは会社に直接連絡して協議を求めるのが一般的です。残業代請求権の消滅時効期間(=発生から3年)が経過しそうな場合は、内容証明郵便で請求書を送付しましょう。
協議がまとまらない場合は、裁判所に対して労働審判を申し立てるか、または訴訟を提起して引き続き未払い残業代を請求します。 -
(5)協議・労働審判・訴訟等による解決
未払い残業代請求に関する労使紛争は、以下のいずれかの形で解決に至ります。
① 協議の場合
労使間で合意書を締結し、その内容に従って未払い残業代の精算を行います。
② 労働審判の場合
労使間で調停が成立するか、または労働審判によって判断が示されます。調停が成立し、または労働審判が確定した場合は、強制執行の申立てが可能となります。
③ 訴訟の場合
裁判所の判決によって、終局的な結論が示されます。判決が確定した場合は、強制執行の申立てが可能となります。
4、食品製造業の労働者が未払い残業代を請求するなら弁護士に相談を
食品の生産・加工等に従事する労働者の方が、会社に対して未払い残業代を請求したい場合には、弁護士へのご相談をおすすめします。
弁護士は、労働基準法の規定および実際の労働や支払いの状況に基づき、未払い残業代の金額を正確に計算した上で、その全額を回収できるようにサポートいたします。会社との協議や労働審判・訴訟などへの対応も、弁護士にすべてお任せいただけるので安心です。
未払い残業代請求をご検討中の方は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
食品製造業の工場労働者の方は、長時間労働になりがちであるため、本来受け取れるはずの残業代を会社から支払ってもらえていないケースも少なくありません。
まずは弁護士に相談して、未払い残業代が発生していないかどうかを確認しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、会社とのトラブルに関する労働者のご相談を随時受け付けております。連日の長時間労働にもかかわらず、十分な額の残業代が支払われていない場合には、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスにご相談ください。
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