解雇予告手当がもらえない! いつ支払われる? 支払いの条件は?
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山梨労働局が設置した「総合労働相談コーナー」では、2020年中に8923件の労働相談が行われ、前年度比で34.6%増加しました。そのうち、労働者からの相談割合は54.7%、使用者からの相談割合は30.9%でした。
使用者が労働者を解雇するには、30日以上前に解雇を予告するか(以下「解雇予告」といいます。)、その予告ができない場合には解雇予告手当を支払う必要があります。もし解雇予告が行われず、解雇予告手当も支払われない場合には、例外的な場合を除いて違法です。
この記事では、解雇予告手当の条件や支払いのタイミング、計算方法、支払われなかった場合の対策まで、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和2年度の個別労働紛争解決制度の施行状況」(山梨労働局))
1、解雇予告手当が支払われる条件とは?
解雇予告手当とは、30日の解雇予告期間を待たずに解雇が行われる際、使用者から労働者に対して支払われる金銭です。
まずは、どのような条件の下で解雇予告手当が支払われるのかを確認しておきましょう。
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(1)解雇予告後30日未満で解雇する場合に支払われる
労働者は、使用者から受け取る賃金を基にして生活しているケースが大半です。そのため、いきなり解雇されてしまうと、生活の糧を失い、路頭に迷ってしまうことになりかねません。
そこで、労働基準法第20条第1項および第2項では、使用者が労働者を解雇する際、以下のいずれかの対応を義務付けています。- ① 解雇日の30日以上前に、解雇する旨を予告する
- ② 平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う
- ③ 予告日から30日未満で解雇する場合には、予告期間が30日に満たない日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う
したがって、使用者が労働者を、解雇予告から30日未満で解雇する場合には、原則として解雇予告手当を支払わなければなりません。
なお、解雇予告義務および解雇予告手当の支払い義務は、全ての解雇(懲戒解雇・整理解雇・普通解雇)に適用されます。 -
(2)例外的に解雇予告手当をもらえないケース
以下のいずれかに該当する場合には、例外的に解雇予告手当の支払いを受けられないことがあります(労働基準法第20条第1項但し書き)。
- ① 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
- ② 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
①の天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合に、解雇予告期間を置かなくてもよいとされる理由は、解雇について使用者に対して解雇の予告期間をおかせることが酷だと考えられる場合もあるからです。
したがって、①の場合は解雇予告を置くことが酷かどうかという観点から判断されます。
また、②の労働者の責に帰すべき事由とは、その労働者が予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反または背信行為を意味します。たとえば、社内での盗取・横領・傷害事件、他の労働者に悪影響を及ぼすほどの風紀を乱す行為、採用条件だった経歴の詐称を行った場合などが当てはまります。
上記の理由によって解雇予告手当を支払わない場合には、所轄労働基準監督署長の認定を受ける必要があります(同条第3項、同法第19条第2項)。
また、以下のいずれかに該当する者は、解雇予告手当の対象外とされています(同法第21条)。- ① 日雇い労働者(1か月を超えて雇用されている場合を除く)
- ② 契約期間が2か月以内の労働者
- ③ 契約期間が4か月以内の季節的業務に従事する労働者
- ④ 試用期間中の労働者(14日を超えて雇用されている場合を除く)
2、解雇予告手当の支払いタイミング
解雇予告手当の支払いがいつになるかは、以下の通り、解雇と同時に支払うのが原則とされています。
- 即日解雇の場合……解雇と同時に支払う
- 事前に解雇予告がある場合……遅くとも解雇の日までに支払う(※一般には最後の給与日)
3、解雇予告手当の計算方法
労働基準法のルールを確認しながら、設例を用いて、実際に解雇予告手当を計算してみましょう。
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(1)平均賃金を求める
解雇予告手当の金額を計算するには、まず労働者の「平均賃金」を求める必要があります。
平均賃金は、以下のいずれか高い金額となります(労働基準法第12条第1項)。- ① 直近3か月間(※)の賃金総額を、その期間の総日数で除した金額
- ② 直近3か月間(※)の賃金総額を、その期間の総労働日数で除した金額の60%
なお、上記の計算の基礎となる「賃金」には、基本給や残業代などが含まれますが、以下の期間中の賃金については含まれません(同条3項)。
- 業務上発生した負傷・疾病の療養のために休業した期間
- 産前産後休業期間
- 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児休業、介護休業期間
- 試用期間
また、以下の賃金についても、平均賃金の計算の基礎には含めないことになっています(同条4項)。
- 臨時に支払われた賃金
- 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(例えば、賞与)
- 通貨以外のもので支払われる賃金
以下の設例を検討してみましょう。
<設例>- 賃金締め切り日は毎月末日
- 2021年12月10日に解雇予告がなされた
- 同年9月、10月、11月の賃金(平均賃金計算の基礎となるもののみ)は、それぞれ28万円、33万円、30万円
- 同年9月から11月の実労働日数は65日
設例のケースでは、平均賃金は、以下のいずれか高い金額となります。
① 9月から11月の賃金総額÷9月から11月の総日数
=91万円÷91日
=1万円
② 9月から11月の賃金総額÷9月から11月の総労働日数×60%
=91万円÷65日×60%
=8400円
したがって設例のケースでは、平均賃金は「1万円」です。
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(2)解雇予告手当の対象日数を求める
解雇予告手当の対象日数は、以下の計算式によって求められます(労働基準法第20条第1項、第2項)。
解雇予告手当の対象日数=30日-解雇予告日から解雇日までの日数※
※解雇予告日を含まず、解雇日を含む
(1)に引き続いて、設例を用いて検討してみましょう。
<設例>- 2021年12月10日に解雇予告がなされた
- 同月20日に解雇された
この場合、解雇予告日の翌日から解雇日までの日数は10日です。
したがって、設例の解雇予告手当の対象日数は、30日-10日=「20日」となります。 -
(3)平均賃金に対象日数を乗じて解雇予告手当を求める
最後に、平均賃金に解雇予告手当の対象日数を乗じることで、解雇予告手当の金額を求めます。
<設例>- 平均賃金は1万円
- 解雇予告手当の対象日数は20日
設例のケースでは、解雇予告手当の金額は1万円×20日=「20万円」となりました。
4、解雇予告手当を支払ってもらえない場合はどうすべきか?
労働基準法のルールに基づく解雇予告を行わず、かつ解雇予告手当も支払わずに、使用者が労働者を解雇することは違法です。
もっとも、解雇予告義務又は解雇予告手当支払義務に違反したとしても、そのことで直ぐに解雇が無効になるわけではありません。
そもそも解雇することに理由があるという前提で、判例(最高裁第二小法廷昭和35年3月11日判決)では、解雇予告期間を置かずに解雇を告げたとしても、解雇を告げた日から30日が経過するか、解雇予告手当を支払えば、解雇自体は有効であるとしています。
したがって、もし解雇予告も解雇予告手当の支払いもなく解雇された場合には、解雇予告手当を使用者に請求していくことが基本的な対応方法になります。方法については、例えば、以下のような方法によって解雇予告手当を請求しましょう。
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(1)人事担当者などに連絡して支払いを求める
解雇予告手当の支払いが行われないのは、使用者が労働基準法のルールを正しく認識していないからかもしれません。
まずは人事担当者などに連絡をとり、労働基準法のルールを説明したうえで、解雇予告手当の支払いを求めてみましょう。 -
(2)労働審判を申し立てる
もし使用者との直接交渉がまとまらない場合には、裁判所に労働審判を申し立てることが考えられます。
(参考:「労働審判手続」(裁判所))
労働審判は、労務紛争を迅速に解決することを目的とした法的手続きです。原則として3回以内に審理が完了するため、訴訟よりも早期の解決が期待できます。少し古いデータですが、平成24年の労働審判の終了状況を見ると、70.6%が話し合いで解決していますし、裁判所が下した結論に対して異議申立てがなされなかったものが40.7%あるので、全体として77.7%が労働審判の手続きで解決しています。
労働審判では、当事者同士での話し合いで解決ができなかった場合には、最終的には、裁判官と労働審判員で構成される労働審判委員会が、労働審判によって解決案を提示します。
ただし、労使のいずれかから異議が申し立てられた場合には訴訟手続きに移行するため、二度手間となってしまうおそれがあります。そのため、労使の主張がかけ離れている場合には、当初から訴訟を提起した方がよいかもしれません。 -
(3)訴訟を提起する
解雇予告手当の請求ではなく、そもそも解雇の有効性を争いたい場合には、解雇の適法性等に関して、労使の言い分が大きく食い違っていることもあり、その場合には訴訟による解決を目指すこととなります。
訴訟では、裁判所の公開法廷において、労使双方が主張・立証を戦わせます。最終的には裁判所が判決を言い渡し、確定すれば労使双方に対して拘束力を持ちます。
証拠を用いた厳密な立証が必要となるので、法的知見に基づいた周到な準備が必要です。また、期間も半年から1年以上と長期化する傾向にあるため、弁護士に依頼して根気強く対応することをおすすめいたします。
5、解雇予告手当が支払われない場合は弁護士にご相談を
使用者が解雇予告手当の支払いを拒否している場合、解雇予告手当支払義務違反以外にも労働基準法違反の事由が多数存在している可能性があります。また、そもそも適法な解雇理由は非常に限られており、解雇自体が無効である可能性もあります。
もし使用者に対して解雇予告手当の支払いや、解雇の無効を主張したい場合には、弁護士へのご相談がおすすめです。
弁護士が使用者に対して、法的根拠にのっとった主張を行えば、労働者にとって有利な形で紛争を解決できる可能性が高まります。個人では使用者に立ち向かうのが難しくても、弁護士の法的知見と経験を活用すれば、使用者と対等以上に渡り合うことが可能です。解雇予告手当の未払い、不当解雇などにお悩みの方は、お早めに弁護士までご相談ください。
6、まとめ
使用者が労働者を、30日以上前から予告をせずに解雇する場合には、原則として解雇予告手当の支払いが必要です。
解雇予告手当の未払いが生じている場合、解雇予告手当支払義務違反以外にも労働基準法違反の事由が多数存在している疑いが強い上に、不当解雇もセットで問題になるケースが多いため、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
ベリーベスト法律事務所では、不当解雇や残業代未払いなど労働トラブルに関する法律相談を随時お受けしております。使用者から突然解雇された方や、使用者から受けた処分に納得がいかずお悩みの方は、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所 甲府オフィスまでにご相談ください。
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