論旨解雇とは? 不当な懲戒処分になり得るケースと不当解雇の戦い方
- 不当解雇・退職勧奨
- 諭旨解雇とは
山梨労働局が公表している「令和4年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談件数は1498件あり、そのうち、解雇に関する相談は208件ありました。全体で4番目に多い数字になりますので、解雇に関するトラブルを抱えている方が多くいることがわかります。
就業規則で規定されている懲戒事由に該当するような行為をしてしまった場合には、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。そのなかでも諭旨解雇は、その後に懲戒解雇を予定されていることが通常ですので、非常に重い処分といえます。
今回は、諭旨解雇が不当解雇になり得るケースや不当な処分と感じたときの対処法などを、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
1、諭旨解雇(ゆしかいこ)とは
まずは、諭旨解雇の概要と他の解雇や退職との違いについて説明します。
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(1)諭旨解雇とは2番目に重い処分
諭旨解雇とは、労働者による企業秩序違反行為があった場合に懲戒処分として行われる処分です。具体的な内容は、労働者に対して退職届の提出を促し、退職届の提出をさせたうえで解雇する処分になります。労働契約を終了させる処分になりますので、懲戒解雇に次いで重い処分です。
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(2)その他の解雇や退職との違い
退職や解雇に関する手続きとしては、諭旨解雇以外にもあります。では、これらの手続きは諭旨解雇と、どのように違うのでしょうか。
① 懲戒解雇
懲戒解雇とは、企業秩序違反行為をした労働者を会社側が一方的に解雇する、もっとも重い処分です。諭旨解雇処分であれば、自己都合退職と同様の退職金が支払われるケースもありますが、懲戒解雇処分では退職金の全部または一部が不支給になることもあります。
② 普通解雇
普通解雇とは、懲戒解雇、論旨解雇、整理解雇を除いた解雇一般を指します。
諭旨解雇は、企業秩序違反行為をした労働者への制裁という性質がありますが、普通解雇にはそのような性質はありません。また、普通解雇は労働者の意向にかかわらず一方的に契約を解消するものであるのに対して、諭旨解雇は労働者からの退職願、辞表等の提出が必要という違いもあります。
③ 整理解雇
整理解雇とは、経営状態の悪化などを理由として、労働者を解雇することをいいます。労働者側に何らかの落ち度がある解雇とは異なり、整理解雇は会社側の都合により行われるため、解雇の有効性は他の解雇の手続きよりも厳格な要件で判断されます。
④ 退職勧奨
退職勧奨とは、会社が労働者に対して、退職を促すことをいいます。
労働者からの退職届を受けて、労働契約を終了させるという点では、退職勧奨と諭旨解雇は共通しています。しかし、退職勧奨はあくまでも退職を促す効果しかなく、退職を強制することはできません。諭旨解雇の場合、退職届の提出に応じない場合には、懲戒解雇をすることが予定されていますので、強制力という面で大きな違いがあります。
2、諭旨解雇が不当解雇となり得るケース
諭旨解雇は普通解雇と同様に解雇権の濫用として無効となるほか懲戒処分としても行われるため、一定の要件を満たさないものについては、懲戒権の濫用としても無効となります。諭旨解雇が不当解雇となり得るケースについて説明します。
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(1)就業規則に懲戒処分の種類として諭旨解雇が定められていない
会社が諭旨解雇を行うためには、就業規則において、懲戒処分の種類に「諭旨解雇」が定められていることが必要です。就業規則上で諭旨解雇が定められていないにもかかわらず、諭旨解雇が行われた場合は、不当解雇となる可能性があります。
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(2)就業規則で定める懲戒事由に該当しない
労働者による問題行為があったとしても、それが就業規則で定める懲戒事由に該当しなければ、会社は懲戒処分を行うことができません。
たとえば、十分な調査をすることなく、根拠のないうわさ話に基づいて諭旨解雇を行ったようなケースでは、懲戒事由に該当せず、不当解雇になる可能性があります。 -
(3)企業秩序違反行為に対する制裁として諭旨解雇が重すぎる
懲戒処分には、諭旨解雇以外にも、戒告、譴責(けんせき)、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇といったものがあります。どのような処分を選択するかは、懲戒事由とのバランスを踏まえて慎重に判断しなければなりません。
「ささいなミスや不可抗力による遅刻などの事案で、突然諭旨解雇をする」、「人によって処分の重さを変える」などの対応は懲戒権の濫用にあたるため、不当解雇となる可能性があります。 -
(4)適正手続きに違反している
懲戒処分は、労働者に対する制裁として行われるため、適正かつ公平な手続きにより行われなければなりません。
- 弁明の機会の付与
- 処分の理由を明らかにする
- 処分に不服があれば公正に検討する
などの手続きが就業規則で定められているにもかかわらず、これらの手続きを行わずに諭旨解雇の処分をした場合には、当該手続き違反だけで不当解雇になる可能性があります。
3、不当な処分だと感じたときすべきこと
諭旨解雇処分が不当な処分だと感じたときに、どのような対処法があるのかをしっておきましょう。
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(1)退職を了承する書類にサインをしない
諭旨解雇に納得できないときは、退職届の提出や退職を了承する書類にサインをしてはいけません。
労働者から退職届を提出したり、会社から提示された退職同意書にサインをしたりしてしまうと、諭旨解雇を受け入れたものとして、後から処分の不当性を争うことができなくなってしまいます。 -
(2)解雇の根拠となる書類の提出を求める
不当解雇として争うためには、会社がどのような理由で労働者を諭旨解雇としたのかが重要になります。会社に対して解雇理由証明書の交付を求めることができますので、忘れずに請求するようにしましょう。
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(3)弁明の機会を設けるよう交渉する
就業規則などで懲戒処分にあたって弁明の機会を設けることが定められている場合には、労働者の側から弁明の機会を設けるよう交渉してもよいでしょう。
労働者側の言い分を使用者側に伝えることによって、処分を再考してもらえる可能性があります。弁明の機会では、単に言いたいことを伝えるだけでなく、それを裏付ける証拠なども提示しながら話すことが大切です。 -
(4)弁護士に相談する
不当な処分だと感じても、何をどのように対処すればよいかわからない方も多いと思います。また、会社という組織と労働者が相対するのは簡単ではありません。そのため、不当解雇が疑われる場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。次の章では、弁護士に相談するメリットについては詳しく説明していきます。
4、不当解雇されそうなときは弁護士に相談を
会社から不当解雇されそうなときは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)解雇の有効性を判断してもらえる
諭旨解雇は、懲戒処分のなかでも2番目に重い処分で、諭旨解雇に応じなければ懲戒解雇というもっとも重い処分が下される可能性もあります。そのため、懲戒処分の有効性については、厳しい要件により判断されることになります。
労働問題に詳しい弁護士であれば、懲戒処分の有効性について判断のポイントを熟知していますので、具体的な状況を踏まえて、会社からの諭旨解雇が有効であったかを的確に判断できます。 -
(2)労働者の代理人として会社と交渉できる
諭旨解雇が懲戒権の濫用にあたり無効である場合には、諭旨解雇の撤回を求めて会社と交渉していくことになります。
しかし、労働者個人で会社を相手に交渉を行うのは非常に困難で、まともに取り合ってもらえないことも多いです。弁護士が窓口となって交渉すれば、会社も真摯(しんし)に対応せざるを得なくなりますので、話し合いにより解決できる可能性が高くなります。 -
(3)労働審判や訴訟の対応も任せられる
会社との交渉が決裂した場合には、労働審判の申し立てや訴訟提起といった法的手続きが必要になります。
交渉段階から弁護士に依頼をしていれば、会社との交渉による解決が難しいと判断した時点で、速やかに労働審判や訴訟の手続きに移ることができます。個人で対応するのが難しいこれらの手続きも、経験豊富な弁護士がサポートしてくれるので安心です。
5、まとめ
諭旨解雇は、非常に重い懲戒処分です。労働者からの退職届の提出を受けて解雇されることになりますが、退職届等の提出を拒否した場合は懲戒解雇をされるリスクもあります。
諭旨解雇に対してどのように対処するべきかは、具体的な状況を踏まえて慎重に判断していく必要があるため、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
解雇問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています