退職勧奨に対して慰謝料請求できる? 違法となるケースや進め方
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山梨労働局が公表している「令和4年度の個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争の相談件数は、1498件で前年度よりも9.4%の増加となっています。そのうち、退職勧奨に関する相談が177件あり、全体の11%を占めています。
退職勧奨とは、いわゆる「肩たたき」と呼ばれるものであり、会社が労働者に対して退職を勧めることをいいます。退職するかどうかは労働者の自由ですので、退職したくなければ退職を拒否することができます。しかし、会社によっては退職を拒否した労働者に対して、さらに執拗に退職を勧めてくることがあります。退職勧奨が労働者の自由意思を妨げるような形でなされた場合、違法な退職勧奨となり、会社に対して慰謝料請求が可能です。
本コラムは、違法な退職勧奨を理由として慰謝料請求が可能なケースや慰謝料請求の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
1、退職勧奨に対して慰謝料請求できる?
会社から執拗な退職勧奨を受けた場合、そのことを理由に会社に対して慰謝料を請求するができるのでしょうか。
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(1)そもそも退職勧奨とは?
退職勧奨とは、会社が労働者に対して退職を勧めることをいいます。
退職勧奨に応じるかどうかは、労働者が自由に決めることができますので、退職したくない場合には、退職勧奨を拒否することができます。
このように退職勧奨は、退職を勧めるという効果しかなく、労働者に退職を強制させることはできませんので、退職勧奨自体は違法ではありません。 -
(2)退職勧奨と退職強要との違い
退職勧奨と似た言葉に「退職強要」があります。退職強要とは、会社が労働者に対して不当な圧力をかけることにより、退職を強制することをいいます。
退職強要では、退職するかどうかの自由な意思決定が阻害されていますので、基本的には違法となります。そのため、退職強要により退職を余儀なくされたとしても、労働者による退職の意思表示には瑕疵があるものとして無効になりますので、しっかりと争うことで職場への復帰や退職日以降の賃金相当額の損害を請求することができます。 -
(3)違法な退職勧奨(退職強要)に対しては慰謝料請求が可能
違法な退職勧奨により精神的苦痛を被った労働者は、会社に対して慰謝料請求可能です。
慰謝料請求の可否は、会社による退職勧奨の方法や態様によって変わってきますが、退職勧奨にあたって暴力や長時間の監禁など悪質性の高い行為がなされたようなケースでは、慰謝料を請求できる可能性が高いです。
なお、違法な退職勧奨に応じて退職してしまった後でも、会社に対して慰謝料請求をすることが可能です。
2、違法な退職勧奨のケース
退職勧奨が違法になるのはどのようなケースなのでしょうか。以下では、違法な退職勧奨の具体的なケースを紹介します。
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(1)暴力など明らかな嫌がらせがあった
- 退職勧奨を断ると上司から暴力を振るわれた
- 退職勧奨の面談時に「お前みたいな役立たずは会社にいても迷惑だ」などの暴言を吐かれた
- 退職勧奨を断ってから仕事を割り振られなくなった
退職勧奨時または退職勧奨をきっかけに明らかな嫌がらせを受けた場合には、違法な退職勧奨と評価される可能性があります。
実際の裁判例でも複数の上役から暴力を伴ういじめが繰り返され、無意味な仕事が割り当てられるなどの嫌がらせを受けが事案について、社会通念上の相当性を超えた違法な退職勧奨と認定されています(東京高裁平成8年3月27日判決)。 -
(2)退職勧奨を断っても繰り返される
労働者が退職勧奨を拒否しているにもかかわらず、何度も退職勧奨が繰り返されているような事案は、違法な退職勧奨と評価される可能性があります。
このような事案では、以下を考慮して社会通念上の相当性を超えているかどうかが判断されます。- 退職勧奨を行った回数
- 1回の面談に要した時間
- 退職勧奨における条件の変化の有無
実際の裁判例では、労働者が退職勧奨に応じない意思を示しているのに、3か月で12回の退職勧奨を受け、1回あたりの面談時間は20分から1時間だったという事案について、社会通念上相当な範囲を逸脱しているとして、違法な退職勧奨であると認定しています(最高裁昭和55年7月10日判決)。
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(3)急な転勤・降格があった
会社には配置転換や昇格・降格などを決定する人事権が与えられていますので、会社の裁量に基づいて人事権を行使することができます。しかし、退職勧奨に応じないことを理由として、急な転勤や降格などの不利益処分を行うことは、業務上の必要性を欠き、不当な目的による処分になりますので、権利濫用にあたり違法となります。
このような不利益処分をちらつかせて退職を迫る行為は、社会通念上相当な範囲を逸脱しているといえますので、違法な退職勧奨にあたります。
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3、退職勧奨が違法とならないケース
退職勧奨が違法とならないケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
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(1)退職条件の交渉が行われているケース
退職勧奨を拒否しているにもかかわらず執拗に退職勧奨するのは、原則として違法と評価されます。
しかし、複数回退職勧奨がなされていても、その都度、退職金の上乗せなど退職条件の交渉が行われている場合には、直ちに違法とはなりません。退職勧奨が違法であるかどうかを判断する際には、退職勧奨の回数や頻度だけではなく、その内容も踏まえて判断することが重要です。 -
(2)退職を促されるような理由があった
労働者側に退職を促されるような理由がある場合には、繰り返し退職勧奨がなされても直ちに違法とはいえません。
退職勧奨に応じなければ次の段階として解雇が予定されている場合、退職勧奨に応じた方が労働者にとって有利になります。そのため、労働者への不利益を最小限に抑えるために、退職勧奨に応じるよう説得がなされているケースでは、違法とはいえないでしょう。
4、違法な退職勧奨に対する慰謝料請求の進め方
違法な退職勧奨を理由とする慰謝料請求は、以下のような流れで進めていきます。
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(1)退職を拒否する
退職勧奨に応じる意思がないのであれば、会社に対して退職意思がないことを明確に示すようにしましょう。労働者が退職を拒否する意思を示した後の退職勧奨は、原則として違法となりますので、慰謝料請求の前提として、退職の意思をはっきりと示すことが重要となります。
口頭での意思表示だけでは、後日、言った言わないの水掛け論になりますので、退職勧奨が繰り返されている場合には、書面を利用して退職を拒否する意思を示すようにしましょう。 -
(2)証拠を集める
違法な退職勧奨を理由として慰謝料請求をするためには、会社による退職勧奨が違法であることを証拠により立証していかなければなりません。そのためには、以下のような証拠が必要になります。
- 退職勧奨を受けた面談時の録音
- 執拗に退職を求めるメールなどのやり取り
- 退職勧奨をきっかけになされた嫌がらせの記録
- 上司から暴力を受けた際の診断書
会社から退職勧奨がなされた際には、そのときのやり取りを証拠化するためにもボイスレコーダーなどをあらかじめ準備しておくことが大切です。
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(3)内容証明郵便を送る
違法な退職勧奨の証拠が集まったら、内容証明郵便を利用して慰謝料の支払いを求める書面を送付します。
内容証明郵便とは、書面の内容・送付日・送付先などを証明することができる形式の郵便です。内容証明郵便自体には、慰謝料の支払いを強制する効力はありませんが、労働者側の本気度を示すことができ、会社に対して慰謝料請求をしたという証拠を残すことができます。 -
(4)労働審判・訴訟
会社との交渉では、慰謝料の支払いに応じてくれないときは、労働審判の申し立てを検討してみましょう。労働審判は、訴訟よりも迅速に労働問題を解決できる法的手続きです。原則として3回以内の期日で終了することになっていますので、裁判に比べて早期解決が期待できます。まずは話し合いによる調停での解決が試みられ、それが難しい場合には労働審判という形で裁判所が判断を下します。
労働審判に不服がある場合には、異議申し立てにより訴訟に移行しますので、最終的には裁判により決着をつけることになります。
5、退職勧奨において弁護士に依頼するメリット
会社から執拗な退職勧奨を受けたときは、違法な退職勧奨の可能性がありますので、弁護士への相談をおすすめします。
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(1)退職勧奨についてアドバイスをもらえる
会社から退職勧奨を受けたとしても、ご自身ではそれが違法なものであるかどうか判断するのは難しいです。会社に対して慰謝料請求をするためには、退職勧奨が違法なものといえなければなりません。
退職勧奨の違法性を判断するには、専門家である弁護士のアドバイスが必要となりますので、まずは弁護士の相談することをおすすめします。弁護士に相談すれば、退職勧奨の違法性の判断や証拠収集のアドバイスをしてくれますので、今後の方針が明確になるでしょう。 -
(2)会社と直接交渉してもらえる
違法な退職勧奨を理由として慰謝料請求をする場合、まずは会社と交渉することになります。しかし、違法な退職勧奨を繰り返すような会社を相手に労働者個人が交渉をするのは精神的にも大きな負担となります。
そのため、一人で交渉することが少しでも不安に感じるようであれば、弁護士に交渉を依頼することがおすすめです。弁護士に依頼をすれば労働者に代わり弁護士が交渉を行いますので、労働者の負担はほとんどありません。弁護士なら法的観点から退職勧奨の違法性を指摘できますので、解決金の支払いなどの交渉を有利に進めることが可能です。 -
(3)労働審判や裁判になっても弁護士が対応してくれる
会社との交渉が決裂した場合には、労働審判や裁判の手続きが必要になります。
弁護士に依頼をしていれば、交渉から引き続き労働審判や裁判にも対応してくれますので、最後まで安心して任せることができます。
労働審判や裁判といった法的手続きは、専門的知識や経験がなければ適切に進めていくのが難しいといえますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
6、まとめ
退職を繰り返し強要されるような退職勧奨は違法ですので、会社に対して慰謝料請求できる可能性があります。退職勧奨に応じたくない場合は、まず退職するつもりはないとはっきり伝えることが大切です。
違法な退職勧奨を理由に慰謝料請求する場合は、証拠の集め方や慰謝料の計算などを弁護士に相談することで有利に進められますので、まずはベリーベスト法律事務所 甲府オフィスまでご相談ください。
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