労災の待機期間は有給を使うべき? 労働者の得になるのはどちらか

2022年11月30日
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労災の待機期間は有給を使うべき? 労働者の得になるのはどちらか

山梨労働局の統計資料によると、2021年に山梨県内で発生した死傷災害は877件で、前年比132件の増加となりました。

労働者(会社などの従業員)が業務中にケガをした場合、労働者災害補償保険法に基づき、労災保険給付を受給できます。労災保険給付にはさまざまな種類があり、治療のために仕事を休んだ期間の収入を補填(ほてん)する「休業補償給付」もその一つです。

休業補償給付には3日間の待機期間がありますが、その間有給休暇を取得するように会社から指示されるケースがあるようです。しかし、有給休暇を取得すると損になる可能性もあるので、会社の指示に従うべきかどうかは慎重に判断してください。

今回は、労災保険の休業補償給付の待機期間と有給休暇の関係性などについて、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。

出典:「労働災害発生状況」(山梨労働局)

1、労災保険の休業補償給付が支払われない「待機期間」とは?

業務上の原因により(=業務災害)、または通勤中に(=通勤災害)生じた負傷・疾病の治療等のために仕事を休んだ場合、労災保険から休業期間に応じた「休業補償給付」を受けられます。

ただし、休業補償給付には待機期間が設けられていることに注意が必要です。

  1. (1)休業補償給付は休業4日目から|1~3日目は待機期間

    休業補償給付が支給されるのは、治療等を目的とした休業期間の4日目以降です(労働者災害補償保険法第14条第1項)。休業1日目から3日目については、労災保険の休業補償給付が支給されません。この3日間を「待機期間」といいます。

  2. (2)待機期間の賃金は会社に請求可能

    待機期間に対応する賃金についても、被災労働者に生じた損害であることには変わりがありません。待機期間は休業補償給付が支給されませんが、もし会社が損害賠償責任を負う場合は、会社に対して待機期間中の賃金の支払いを請求できます。

    会社に対する損害賠償請求については、後述します。

2、「待機期間は有給を使うように」と会社から言われたらどうすべき?

休業1日目から3日目の待機期間中、被災労働者は労災保険の休業補償給付を受けることができません。それを埋め合わせるため、会社から「待機期間中は有給休暇を使うように」と指示または提案されることがあります。

被災労働者としては、会社の指示・提案をうのみにするのではなく、有給休暇を取得すべきか否か、ご自身にとってメリットのある方を選択することが大切です。

もし会社が被災労働者に有給休暇の取得を強制した場合、労働基準法違反に当たります
有給休暇の取得時期は、原則として労働者が自由に決めるべきだからです。

会社から有給休暇の取得を強制された場合は、労働基準監督署への相談もご検討ください。

3、労災保険の休業補償給付と有給休暇、どちらが得なのか?

有給休暇を取得すると、その期間は会社から賃金全額の支払いを受けられる反面、労災保険の休業補償給付は受給できなくなります。有給休暇を取得するかどうかを判断する際には、休業補償給付との比較を行うことも重要な視点です。

  1. (1)休業補償給付の場合、有給日数を節約できる

    労災保険の休業補償給付を受給すれば、有給休暇の日数を消費せずに、平均賃金の6割に当たる給付を受けることができます(労働者災害補償保険法第14条第1項)。

    後日取得するために有給休暇をとっておきたい場合には、有給休暇を取得せず、休業補償給付を受給することが有力な選択肢です。

  2. (2)有給休暇の場合、賃金全額が使用者からすんなり支払われる

    一方、有給休暇を取得することのメリットは、賃金全額が使用者からすんなり支払われる点です。

    休業補償給付を受給する場合、金額は平均賃金の6割にとどまります。また、休業1日目から3日目の待機期間は、一切給付が行われません。

    これに対して有給休暇を取得すれば、賃金が100%支払われます。有給休暇が余っていて消化しきれない場合や、短期間の休業にとどまる場合などには、休業補償給付を請求せずに有給休暇を取得することも検討すべきでしょう。

  3. (3)休業補償給付と賃金全額の差額は、後から会社に請求可能

    ひとつ留意すべきなのは、休業補償給付と賃金全額の差額は、後から会社に損害賠償を請求できる場合があるということです。たしかに労災保険の休業補償給付は、休業期間中の賃金全額を補償するものではありません。

    しかし後述するように、会社の使用者責任(民法第715条第1項)または安全配慮義務違反(労働契約法第5条)が認められる場合、会社は被災労働者に対して、労災と相当因果関係のある損害全額を賠償する義務を負います。休業補償給付と賃金全額の差額についても、労災と相当因果関係のある損害として、会社による損害賠償の対象です。

    したがって、いったん休業補償給付を受給した後でも、会社に対して損害賠償を請求すれば、結果的に賃金全額の補償を受けられる可能性があります。仮にすんなりそうなれば、休業期間中に有給休暇を取得する必要はないでしょう。

    ただし、会社に対する損害賠償請求を行った場合、会社が反論してくることも想定されます。もし会社との間で紛争に発展した場合、賃金の支払いを受けるのが遅れる可能性が高いのでご注意ください。

  4. (4)どちらが得かはケース・バイ・ケースで判断すべき

    休業補償給付の受給と、有給休暇の取得のどちらにメリットがあるかは、被災労働者の状況に応じて異なります。

    たとえば、会社の損害賠償責任が認められる見込みが小さい場合や、労災による損害が比較的少額の場合は、有給休暇を取得した方がよいかもしれません。手続きに時間・労力・費用をかけることなく、スムーズに賃金の支払いを受けるメリットが大きいからです。

    これに対して、会社の損害賠償責任が認められる可能性が高く、かつ労災によるケガが完治せずに後遺症が負ったなど損害額が大きい場合には、有給休暇を取得しない方がよいと思われます

    具体的には、労災保険の休業補償給付を請求したうえで、さらに会社に対して損害賠償を請求するのがよいでしょう。後遺障害慰謝料や逸失利益などと併せて、追加で大きなコストをかけることなく休業損害の賠償も請求できるからです。

    労災の被害を回復するため、どのような方針で対応すべきかについては、弁護士への相談をおすすめします。

4、労災被害に遭った場合、会社に対する損害賠償請求もご検討を

休業補償給付の例からわかるとおり、労災保険給付は被災労働者に生じた損害全額を補償するものではありません。損害全額の補填を受けたい場合には、会社に対する損害賠償請求を併せてご検討ください。

  1. (1)労災保険では補償されない損害の例

    労災保険給付によって補償されない損害の代表例は、精神的損害(慰謝料)です。特に、労災によるケガが完治せずに後遺症が残った場合は、数千万円単位の後遺障害慰謝料が認められる可能性がありますが、労災保険給付では一切補償されません

    また、労働能力喪失に伴う逸失利益や休業損害などは、労災保険給付により一定の限度で補償されますが、全額が補償されるわけではありません。労災保険給付の受給要件は画一的であり、個々の被災労働者の状況が細かく精査されるわけではないからです。

  2. (2)会社に対する損害賠償請求の法的根拠

    労災に関して会社に損害賠償を請求する際には、以下のいずれかの法的根拠に基づいて争うことになります。

    被災の原因や状況などに応じて、適切な法律構成を選択することが大切です。

    ① 使用者責任(民法第715条第1項)
    他の従業員のミスによって業務中に被災した場合は、会社も使用者責任に基づく損害賠償義務を負います。

    ② 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
    労働者が安全を確保しつつ働けるように配慮を行う義務を怠った会社は、その結果として業務中にケガをした被災労働者に対する損害賠償義務を負います。
  3. (3)損害賠償請求は弁護士に依頼するとスムーズ

    労災につき、実際に会社に対して損害賠償を請求する場合は、弁護士にご依頼いただくことをおすすめします。

    弁護士は被災労働者の代理人として、労災による損害をできる限り回復できるように、さまざまな手段を尽くしてサポートいたします。示談交渉や労働審判・訴訟などの法的手続きも、弁護士が一括して代行しますので、精神的ストレス・時間的負担・労力なども大幅に軽減されるでしょう

    労災に関する損害賠償請求は、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

労災保険の休業補償給付には待機期間があり、休業1日目から3日目は休業補償給付を受給できません。

待機期間中に有給休暇を取得すれば、賃金全額の支払いを使用者からスムーズに受けられます。ただし、有給休暇を取得せずに、会社に対する損害賠償請求などを選択した方がよい場合もあるので、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。

ベリーベストは、労災に関する損害賠償請求などのご相談を随時受け付けております。労災によるケガ・病気・後遺症などにお悩みの方は、お早めにベリーベスト法律事務所 甲府オフィスへご相談ください。

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