自己破産申請中に後払い決済は可能? 後払い決済を利用する注意点
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裁判所が公表している司法統計によると、令和2年に甲府地方裁判所に新たに申立てのあった破産事件の件数は、500件でした。
最近では、クレジットカード以外にも商品を購入した後に代金の支払いができる後払い決済サービスがあります。手持ちの現金がなくても商品の購入やサービスの利用ができるという点で便利な決済手段ですが、自己破産の申請中または自己破産後に後払い決済を利用する場合には、注意が必要な点があります。
今回は、自己破産申請中および自己破産後に後払い決済サービスを利用する際の注意点について、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
1、自己破産の申請中に後払い決済は利用できる?
後払い決済とはどのようなサービスなのでしょうか。また、自己破産の申請中に後払い決済を利用することはできるのでしょうか。
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(1)後払い決済とは
後払い決済とは、商品を先に受け取り、後で代金を支払う決済手段のことをいいます。後払い決済では、決済代行会社が購入者の購入した商品の代金をお店に立て替えて支払い、その後、購入者がコンビニや郵便局などで商品代金を支払い精算するという仕組みがとられています。
後払い決済は、クレジットカードを持つことができない学生、主婦、年配の方であっても利用することができる決済手段ですので、さまざまな場面で利用されています。 -
(2)自己破産申請中に後払い決済を利用するのは危険
自己破産の申請を弁護士に依頼した場合には、弁護士に依頼をした以降は、クレジットカードの利用や新規の借り入れが禁止されます。
これは、自己破産の手続きを依頼した後に、新たな借り入れなどがなされると正確な負債額を把握することができなくなるという理由と破産法上の免責不許可事由に該当するリスクがあるからです。
破産法では、詐術による信用取引を免責不許可事由として定めています(破産法252条1項5号)。詐術による信用取引とは、借金を返済することができないと知りながら、それを隠して借り入れなどをする行為です。
隠して借り入れする行為には、これから自己破産の申請をする予定であるにもかかわらず、それを言わないで借り入れすることまで含むのか、積極的にウソをついて借り入れすることに限られるのかは、統一的な見解があるわけではありません。
しかし、自己破産の申請をする予定であるにもかかわらず、それを言わないで借り入れすることも含まれるとする見解があります。
そして、後払い決済は、決済代行会社が商品代金を立て替えて支払うという仕組みになりますので、決済代行会社に商品代金相当額の借金をしているのと同様の状態となります。
そのため、これから自己破産の申請をする予定であるにもかかわらず、そのことを債権者に隠して後払い決済を利用することは、詐術による信用取引に該当する可能性があり、免責不許可事由があることを理由に、破産ができなかったという事態もあり得ます。
したがって、自己破産の申請中は、後払い決済を利用することは避けるようにしましょう。
なお、分割払いや携帯電話会社のキャリア決済についても、後払い決済と同様に、実質的には借金と変わりありませんので、自己破産の申請中の利用は避けるようにしましょう。
2、自己破産後に後払い決済を利用することはできる?
では、自己破産後であれば後払い決済を利用することはできるのでしょうか。
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(1)自己破産後であれば利用は可能
自己破産の手続きが終了した後であれば、破産ができなくなるといったリスクはなくなりますので、後払い決済を利用することが可能となります。
ただし、自己破産をしたという情報は、信用情報機関の個人信用情報として登録されてしまいますので、決済代行会社による与信審査の結果、後払い決済サービスを利用することができない場合もあります。 -
(2)自己破産後に後払い決済を利用するリスク
自己破産後であっても後払い決済を利用することは可能です。しかし、後払い決済は、手持ちの現金がなくても商品の購入やサービスの利用が可能になる決済手段ですので、本人の支払い可能額以上の物を購入してしまうというリスクがあり、注意が必要です。
自己破産をした方は、お金の管理や使い方に失敗して自己破産なっていることが多いため、できる限り、現金決済を中心に生活をした方が安心といえます。
3、後払い決済の利用は注意が必要
後払い決済を利用する場合には、以下の点に注意が必要です。
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(1)後払い決済は借金と変わらない
後払い決済サービスは、決済代行会社が商品代金を立て替えて支払うというものですので、実質的には借金と変わりありません。
現金が不要な決済手段ですので、手持ちの現金がなくても商品やサービスの利用ができ、ついつい使いすぎて支払期限になっても商品代金の精算ができない状態になってしまうこともあります。
金融機関や貸金業者からお金を借りるとなるとハードルが高いと感じてしまう方も、後払い決済サービスだと気軽に利用してしまいがちですので、知らないうちに多重債務の状態に陥ってしまうリスクがあります。 -
(2)後払い決済の利用方法・タイミングによっては自己破産ができなくなる
後払い決済サービスは、実質的には借金と変わりないにもかかわらず、その認識を持っている方が少ないのが現状です。そのため、弁護士に債務整理を依頼した後も、後払い決済サービスが借金であることを知らずに、利用を続けてしまうことがあります。
自己破産の申請中の後払い決済サービスの利用は、免責不許可事由に該当するリスクのある行為ですので、十分気を付けるようにしましょう。
また、後払い決済サービスは、購入した商品を転売することによって現金化する手段としても利用されることがあります。
しかし、買った物を転売すれば、中古品の売却額しか手に入りませんから、借金を不合理な理由で増やしているだけということになりますし、そのような行為を行われると、破産手続きの処理が通常の破産事件よりも長引き、債権者の利益も害することになります。
したがって、購入した商品を転売することによって現金化するという行為は、自己破産の手続きにおいて免責不許可事由とみなされるリスクがあります(破産法252条1項2号)。
現金化行為は、借金を返すために借金をしているのと変わりありませんので、その場しのぎの解決にしかなりません。現金化を繰り返さなければ生活することができない状態になっている場合には、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。 -
(3)2度目の自己破産はハードルが高くなる
自己破産後であれば後払い決済サービスを利用することができますが、後払い決済サービスを利用しすぎないように注意が必要です。
「再び借金をしたとしても、また自己破産をすればよいのでは?」と考えている方もいるかもしれませんが、2度目の自己破産は非常にハードルが高いものとなります。
破産法では、過去7年以内に自己破産をして免責を得ている場合を免責不許可事由と定めています(破産法252条1項10号)ので、7年以内に再度自己破産をすることは原則として認められていません。7年を経過したとしても2度目の自己破産となれば、本当に免責をしてよいかどうかが1度目に比べて厳格に審査されることになります。
そのため、後払い決済サービスを利用するとしても、自分の収入・資産の範囲内で利用するように心がけましょう。
4、新たな借金を増やす前に弁護士に相談を
新たな借金を増やす前に、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)借金問題を解決するためには債務整理が必要
借金の返済ができなくなった方の中には、借金の返済をするために新たな借金をしてしまう方もいます。このような対応は、借金問題の根本的な解決にはならず、問題解決を先延ばしにしているに過ぎません。
借金問題を解決するためには、早めに弁護士に相談をして、弁護士による債務整理を行ってもらうことが大切です。債務整理をすることによって、借金を減額することができたり、支払い回数・金額などを変更したりすることによって支払い可能な状態にしてもらうことができますので、借金問題の根本的解決が可能となります。
借金問題は、一人で悩んでいても解決が難しため、まずは実績のある弁護士に相談をするようにしましょう。 -
(2)最適な債務整理の方法を選択して、サポートしてもらえる
債務整理の方法には、自己破産以外にも任意整理、個人再生といった方法があります。どの方法が最適な方法であるかについては、個別具体的な状況によって異なってきますので、最適な債務整理の方法を選択するためには、借金トラブルの実績がある弁護士のアドバイスが不可欠となります。
また、後払い決済サービスを利用して購入した商品を現金化する行為は、免責不許可事由(破産法252条1項各号)に該当するリスクがありますので、弁護士に債務整理の依頼をした後は、その利用を控えなければなりません。
この点についても、相談をした弁護士からアドバイスをもらえますので、安心してお任せください。
5、まとめ
後払い決済サービスは、現金を持たずに買い物ができるため、非常に便利な決済手段です。しかし、後払い決済サービスは、実質的には借金と変わりないにもかかわらず、そのことを意識せずに使いすぎてしまった結果、支払いができない状況に追い込まれてしまうこともあります。
後払い決済サービスは、ご自身の返済可能な範囲で使うことが大切ですが、他にも借金があり支払いが困難な状況になってしまったという場合には、新たに借金を重ねる前に、早めに弁護士に相談をすることが大切です。
借金問題でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています