「証人威迫」とはどんな行為か? 罪の重さや、脅迫罪との違いを解説
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刑事事件を起こしてしまい自分が罪を問われる事態になったとき、被害者や目撃者などに対して自分にとって有利な結果になるようにはたらきかけたくなるのは自然なことです。しかし、行動が行き過ぎると「証人威迫罪」に問われてしまう危険があることに注意しなくてはいけません。
たとえば、令和5年(2023年)には、自身を刑事告訴した相手について「絶対に許さない」といった発言をした元国会議員が証人威迫罪の容疑で逮捕されました。証人威迫罪は正しい刑事手続きを妨げる行為を罰する犯罪であるため、違反すると、逮捕を含めて厳しい処分を受けるおそれがあります。
本コラムでは「証人威迫罪」とはどのような犯罪なのか、脅迫罪との違い、警察に容疑をかけられたときの刑事手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。
1、証人威迫罪に問われる行為と罪の重さ
まず、証人威迫罪とはどのような犯罪であるのか、問われる行為や罪の重さなどの概要を解説します。
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(1)証人威迫罪とは?
証人威迫罪は、刑法第105条の2に定められている犯罪です。
条文によると「自己もしくは他人の刑事事件の捜査もしくは審判に必要な知識を有すると認められる者またはその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請(きょうせい)し、または強談威迫の行為をした者」が処罰の対象となります。 -
(2)証人威迫罪に問われる行為の例
証人威迫罪は、刑事事件の捜査や刑事裁判において、犯罪の成否、どの程度の刑罰が科されるかの資料となる情状など犯人または証拠の発見に役立つ知識を有する者、具体的には被害者、証人、参考人、そしてその親族に対して、以下のような行為をはたらいた場合に成立します。
・ 面会の強請
「強請」とは無理にせがんだり、ゆすったりするという意味で、相手にその気がないのに「〇月〇日の午後〇時に△△で待っているからかならず来てほしい」などと面会するよう強く迫ると「面会の強請」になります。
・ 強談
言葉で自分の要求に応じるよう強く迫ることを「強談」といいます。
たとえば「被害届を取り下げてほしい」などとしつこく要求する行為は、強談にあたる危険があります。
・ 威迫
脅しめいた言葉や威圧的な態度によって、相手を不安にさせたり困惑させたりすることを「威迫」といいます。
本罪は「自己もしくは他人の刑事事件」が対象であるため、自分が罪を問われている状況はもちろん、家族・友人・知人などが起こした事件についても威迫を行うことも証人威迫罪に問われる可能性があります。
また、証人本人を相手とする場合はもちろん、証人本人へのはたらきかけを期待してその親族に対して面会強請や強談、威迫をすることも、処罰の対象となるのです。
なお、刑法の条文には「正当な理由がないのに」と明記されているため、逆にいえば「正当な理由があれば本罪は成立しない」ということになります。
しかし、罪を問われている状況であっても、「会って話し合いをしたい」「被害届を取り下げてほしい」とはたらきかけることは、必ずしも正当な理由だとはいえません。
証人やその親族などには、加害者やその関係者と面会をしたり話し合ったりする義務はないためです。
むしろ、証人側の立場としては、通常は「加害者とは接触したくない」と思うものでしょう。
したがって、この要件は基本的には弁護人が正当な調査活動の範囲で連絡を取ることを排除する趣旨であり、加害者と被害者が親族同士や会社の同僚関係などで、事件に関係のない連絡を取り合うなどの具体的な状況がない限りは、「正当な理由」が認められる可能性は低いことに注意してください。 -
(3)証人威迫罪で科せられる刑罰
証人威迫罪に問われて刑事裁判で有罪判決を受けた場合、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科せられます。
拘禁刑の上限が低いことや罰金で済まされる可能性があることをふまえれば、刑法に定められている犯罪のなかでは比較的軽い刑罰が定められているといえるかもしれません。
しかし、自分が別の刑事事件を起こしてしまった状況の場合には、さらに証人威迫罪でも刑罰を科せられることになってしまいます。
また、善意から家族・友人・知人などのために一肌脱いだつもりでも、刑罰が科せられて前科がついてしまうおそれもあることに注意しましょう。
2、証人威迫罪と脅迫罪との違い
証人威迫罪は、証人やその親族に対して「面会してほしい」「被害届を取り下げてほしい」といった脅しをかけたり不安にさせたりすることで成立する犯罪です。
以下では、同じく刑法に定められている「脅迫罪」と証人威迫罪の違いを解説します。
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(1)脅迫罪とは
脅迫罪は刑法第222条に定められている犯罪です。
相手やその親族に、生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫した者を処罰の対象としています。
法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金であり、証人威迫罪と同じです。 -
(2)証人威迫罪と脅迫罪の違い
脅迫罪が処罰の対象とする行為は、生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知ですが、証人威迫罪は面会の強請・強談・威迫を対象としています。
たとえば「痛い目にあわせてやるぞ」「近所に悪いうわさをばらまいてやるぞ」といった具体的な危害を示唆する行為は脅迫罪に問われます。
一方で、証人威迫罪は、明確な脅しがなくても言葉や態度によって相手が「怖い」「不安だ」と感じれば成立するという点が脅迫罪との大きな違いになります。
また、脅迫罪は相手とその親族の生命・身体・自由・名誉・財産といった権利を保護の対象とするための法律であるのに対して、証人威迫罪は証人やその親族に対する違法行為を罰することで刑事手続きの適正な運用を保護の対象としているという点でも違いがあります。
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3、証人威迫罪の容疑をかけられるとどうなる?
以下では、警察に証人威迫罪の容疑をかけられてしまった後の、刑事手続きの流れを解説します。
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(1)証人威迫罪は逮捕の可能性が高い
証人威迫罪は、逮捕される可能性が高い犯罪です。
そもそも逮捕とは、犯罪の容疑をかけられている被疑者による「逃亡または証拠隠滅」を防ぎ、適正な刑事手続きを確保することを目的としています。
証人威迫罪にあたる行為があれば、警察・検察官による捜査や刑事裁判が阻害されてしまうおそれが高まるため、容疑の目が向けられれば逮捕を避けることは困難です。 -
(2)逮捕・勾留による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内、合計で72時間を上限とした身柄拘束を受けます。
さらに検察官からの請求によって裁判官が勾留を許可すると、最大20日間にわたって身柄を拘束されるため、逮捕時から数えて最大23日間も社会から隔離される状況が続いてしまいます。
もし自分が起こした刑事事件について、さらに証人威迫罪も重ねて容疑をかけられてしまった場合には、最初の事件について逮捕・勾留が満期を迎えるまでに、証人威迫罪の容疑で再逮捕される危険も高いでしょう。
再逮捕されると、さらに逮捕・勾留による最大23日間の身柄拘束を受けます。
最初の事件+証人威迫事件で最大46日間という長期にわたって社会から隔離されるので、家庭・会社・学校といった社会生活に悪影響が生じるおそれがあるでしょう。 -
(3)検察官が起訴すれば刑事裁判が開かれる
検察官が裁判所に起訴すれば、刑事裁判が開かれます。
刑事裁判では、検察官・弁護人が双方に証拠を示したのちに、裁判官がそれを取り調べて、有罪か無罪の判断や有罪の場合にはどの程度の刑罰が適切なのかの判断を行います。
最初の事件に加えて証人威迫罪も併せて刑事裁判に発展した場合、二つの犯罪は「併合罪」の関係となります。
たとえば、傷害事件を起こし、さらにその事件について証人威迫罪も重ねて起こして両方の罪で起訴されると、刑が加重されて最大17年にわたる拘禁刑を科せられるおそれがあるのです。
4、刑事手続きに関連するそのほかの罪と証人威迫罪の違い
証人威迫罪のほかにも、証拠隠滅罪と偽証罪などの犯罪が、刑事手続きの適正を保護するために法律で定められています、
以下では、証拠隠滅罪や偽証罪と証人威迫罪の違いを解説します。
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(1)証拠隠滅罪
証拠隠滅罪は刑法第104条に定められている犯罪です。
他人の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造すること、または偽造・変造の証拠を使用することで成立し、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科せられます。
証拠隠滅罪は「証拠」を保護することで刑事手続きの適正を確保するものであり、保護しようとしている法益は証人威迫罪と同じです。
ただし、証拠隠滅罪が保護対象とするのは物的な証拠品であるという点で、証人威迫罪とは別の役割をもっています。
また、証人威迫罪は「自己もしくは他人の刑事事件」が対象ですが、証拠隠滅罪は「他人の刑事事件」のみを対象としている点も大きな違いとなります。
つまり、罪を犯した本人が証拠隠滅罪に問われることはありません。
これは、罪を犯した人にとって「証拠を隠したい」「不利な証拠であれば偽造などでごまかしたい」と考えるのがごく当然であるため、という考え方にもとづいています。 -
(2)偽証罪
偽証罪は刑法第169条に定められている犯罪で、3か月以上10年以下の拘禁刑が科せられます。
偽証罪によって処罰されるのは、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べない旨を宣誓したのに虚偽の陳述をした証人です。刑事事件だけでなく民事事件も対象となります。
国の審判作用の適正を保護する目的があるという点では証人威迫罪と同じ性格をもっていますが、処罰の対象は証人であるため、たとえ法廷で虚偽を述べても刑事事件を起こした本人が偽証罪によって処罰されることはありません。
5、まとめ
「証人威迫罪」は、刑事事件の被害者や目撃者などの証人に対して面会の強請・強談・威迫をはたらくことで成立します。
罪を問われている本人やその関係者などであれば「被害者との話し合いで穏便に解決したい」と考えるは自然なことですが、何度も面会を申し入れたり、自分に有利なように懇願したりするといった行為は証人威迫罪に問われる危険があることに注意しましょう。
証人威迫罪に問われないようしながら安全に証人などと接触するためにも、罪に問われて逮捕された方やその関係者の方は、早い段階から弁護士に相談しましょう。
弁護士が代理人として交渉の窓口を務めたり、被害者との示談交渉も弁護士に依頼したりすることで、証人威迫罪に問われる危険を回避できます。
刑事事件に関する証人や被害者との交渉や、罪に問われて逮捕された方の弁護活動については、まずは刑事事件の解決実績を豊富にもつベリーベスト法律事務所 甲府オフィスにご依頼ください。
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