面会要求罪とは? 未成年者に会いたいと告げると罪になるのか

2024年06月27日
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面会要求罪とは? 未成年者に会いたいと告げると罪になるのか

令和5年7月、性犯罪に関する規定を改正する刑法が施行されました。その中で、「16歳未満の者に対する面会要求等の罪」が新たに設けられ、わいせつ目的で16歳未満の子どもに面会を要求する行為が罪に問われることになりました。

山梨県内では、令和5年11月、SNSで「世界で一番幸せな女の子にしてみせる」などと少女にメッセージを送信し、実際に会って逮捕される事件が発生しています。16歳未満の相手に「会いたい」と伝えるだけで犯罪になることに疑問を感じる方もおられるかもしれません。

しかし、今般の法改正により、性犯罪全般の処罰対象が見直され、いわゆるグルーミング罪として面会を要求する行為が処罰の対象になったことを理解しておくことが重要です。本コラムでは、新しく設けられた16歳未満の者に対する面会要求等の罪について、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。

1、面会要求等罪とは?

新設された16歳未満の者に対する面会要求等の罪(面会要求等罪)とはどのような罪なのか解説します。

  1. (1)罰せられる行為

    面会要求等の罪は、一言で表すと、「面会を要求する行為」と「性的な画像や動画を送るよう要求する行為」を罰する規定です。
    このうち、面会を要求する行為が罪になる要件は、以下のとおりです

    ① わいせつの目的であること
    16歳未満の子どもが性被害に遭うことを防止するための規定なので、わいせつな目的で面会を要求することが前提となります。

    ② 相手が16歳未満であること
    面会を要求する相手が16歳未満であること、13歳以上の場合は、行為者が5歳以上年長(誕生日が5年以上前の日)であることが要件になります。
    相手の年齢や年齢差によって処罰の対象になる理由は、次章で詳しく解説します。
    なお、行為者と相手が異性間であるか同性間であるかは、いずれも本罪の成立には関係ありません。

    ③ 不当な手段で会うことを要求すること
    次のような手段で面会を要求した場合に処罰の対象になります。

    • 威迫、偽計(うそ)、誘惑
    • 拒否しているのに繰り返し要求する
    • 金銭などの利益を与え、またはその約束をする


    なお、「会う」とは対面で実際に会うことをいい、テレビ電話など映像を通して顔を合わせることは含まれません。

  2. (2)罰則

    面会の要求をする行為をした場合は、「1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」、わいせつの目的で実際に会った場合は、「2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」に処せられます。
    拘禁刑とは、懲役刑と禁錮刑を一本化した刑罰で、令和7年6月から導入されることになっています。
    令和7年5月までに犯した行為は、懲役刑で処罰されます。

  3. (3)16歳未満と知らなかった場合も罪になる?

    原則としては、面会を要求した相手が16歳未満であることを知らなかった場合は、故意がないので、犯罪は成立しません。
    しかし、相手が16歳未満かもしれないと考えられる状況があるのに、あえて面会を要求した場合は、「未必の故意」があったと判断されて、罪に問われる可能性があります。

    未必の故意があると判断される可能性がある具体的状況は、以下のような事例が考えられます

    • 中学生と思われる制服姿のプロフィール画像を閲覧していた
    • 高校入試に関する会話をしていた
    • 相手に年齢を何度も確認していた
  4. (4)16歳未満との交際で犯罪になる行為

    16歳未満と交際する場合、面会要求等罪以外に罪に問われる可能性のある行為は以下のようなものがあります。

    罪名 行為の内容 罰則
    不同意性交等 同意の有無にかかわらず、性交(口腔性交などを含む)をする 5年以上(20年以下)の拘禁刑(懲役)
    不同意わいせつ 同意の有無にかかわらず、わいせつな行為(体に触る、自己の性器を触らせるなど)をする 6月以上10年以下の拘禁刑(懲役)
    ストーカー規制法違反 恋愛感情や好意を伝える目的で、つきまといなどの行為を繰り返す 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
    山梨県条例違反 デートなどの目的で、午後11時から午前4時までの間、自宅以外の場所へ同伴させる 30万円以下の罰金

    ※不同意性交等罪、不同意わいせつ罪は、相手が13歳以上の場合、5歳以上年長者が処罰対象

2、面会を要求するだけで罪になる理由

16歳未満の子どもに面会を要求すると罪になる規定が設けられた理由について解説します。

  1. (1)面会を求めただけで処罰される理由

    面会要求等罪が設けられたのは、16歳未満の子どもが性被害に遭うことを未然に防いで、性的自由や性的自己決定権の保護を徹底させることが目的とされています

    近年、金銭などの見返りを得てデートをする「パパ活」や「ママ活」といわれる動きが広がりを見せており、これらは性的な行為を含まない関係と考えられているようですが、児童買春やリベンジポルノなどの深刻な被害が発生していることも事実です。
    そのような性被害を未然に防ぐために、わいせつ目的かつ不当な手段で面会を求める行為や、性的な画像、動画の送信を要求する行為が処罰の対象とされました。

  2. (2)16歳未満の者に対する行為が処罰される理由

    今回の性犯罪規定の改正では、性交同意年齢が「13歳未満」から「16歳未満」に引き上げられ、「強制」性交等罪などの性犯罪が「不同意」性交等罪などに改められました。

    改正後の規定では、対等な関係のもと、自由な意思決定ができる状況で同意を得ずに性的な行為をした場合は罪に問われることになり、処罰範囲が拡大したと理解されています。
    性的な行為について、対等な関係で自由な意思決定をする能力は、中学生の年齢で十分に備わっているとはいえないことから、性交同意年齢が16歳未満に引き上げられました
    この年齢の線引きは、性犯罪規定全般で共通しており、面会要求等罪も16歳未満の子どもに対する行為が処罰の対象とされています。

  3. (3)年齢差を理由に処罰される理由

    面会を求める相手が13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上の年長者である場合に限り処罰されることにされています。

    これは、性的な行為について自由な意思決定をするためには、年齢差も大きな要素になると考えられるためです。
    16歳未満に対する面会要求を一律に処罰の対象にすれば、同世代同士の恋愛をも罰することになりかねません
    そこで、性的な行為の意味などについて理解できると考えられる13歳以上については、対等な関係で判断できる年齢差の上限を5歳差として、処罰の対象外にされました。

3、面会要求等罪で逮捕される可能性は?|逮捕されるとどうなる?

面会要求等罪で逮捕される可能性や、逮捕された場合の手続きの流れについて解説します。

  1. (1)事例から見る逮捕の可能性

    面会要求等罪の検挙事例から、逮捕の可能性を見てみましょう。

    ① 自首により発覚し逮捕されなかったとみられるケース(東京)
    令和5年7月、SNSで知り合った少女に1万円を渡す約束をして、実際に会った容疑で32歳の男性が検挙されました。
    男性が警察に自首したことにより事件が発覚したと報道されていますが、身柄を拘束せずに検察に事件が送致された(書類送検)ことから、逮捕はされなかったとみられます。

    ② 実際に会って逮捕されたケース(山梨)
    冒頭でも紹介した令和5年11月に山梨県内で発生したケースでは、SNSで知り合った少女に「交通費も遊ぶお金も俺が出す」と利益供与を約束して実際に会い、29歳の男性が逮捕されました。

    ③ 面会を要求して逮捕されたケース(沖縄)
    令和5年10月、SNSを通じて少女に金銭の支払いを約束して会うことを要求した56歳の男性が逮捕されました。
    少女の保護者の通報で事件が発覚しています。
  2. (2)どんな場合に逮捕される?

    面会要求等罪は、後日、逮捕状を示されて逮捕される(通常逮捕)ケースが多いと考えられます。
    通常逮捕の要件は、次の2点です

    • 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(逮捕の理由)
    • 逃亡や証拠隠滅のおそれがあること(逮捕の必要性)


    逮捕の理由は、警察が捜査により収集した証拠により判断されます。
    面会要求等罪の場合は、被害者の供述やSNSなどの通信内容、逮捕される前の事情聴取の結果などが証拠として考えられます。
    逃亡や証拠隠滅のおそれの有無は、事件の重大性や被疑者の職業、年齢、家族構成、被害者への働き掛けの可能性などから判断されます。

    面会要求罪のように、被害者がいる犯罪、さらに被害者が恐怖を感じているようなケースでは、逮捕の必要性が高いと判断される傾向があります
    なお、前項で紹介した自首により事件が発覚したケースでは、身柄を拘束せずに刑事手続が進められている模様ですが、自発的に警察に犯罪を申告した点を考慮した可能性が考えられます。

  3. (3)逮捕後の流れ

    逮捕された場合の刑事手続きの流れは、以下のとおりです。

    ① 逮捕
    逮捕されると、警察署の留置場に最大48時間収容されて、取り調べを受けます。
    弁護士以外と面会したり、電話をかけたりすることはできません。

    ② 検察官送致
    容疑が晴れない場合は、検察庁に事件が送致されて、検察官の取り調べを受けます。
    検察官は、引き続き身柄を拘束して捜査する必要があると判断すれば、24時間以内に裁判所に勾留請求をします。
    検察官が身柄拘束の必要はないと判断した場合や、裁判所が勾留を認めなかった場合は、釈放されて、在宅で取り調べを受けます。

    ③ 勾留
    裁判所で勾留が認められれば、最大10日間身柄拘束が続き、必要があればさらに10日間勾留が延長されることがあります。

    ④ 起訴または不起訴処分
    勾留の満期日までに、検察官は以下のいずれかの処分を決定します。

    • 公開の法廷での刑事裁判を求める公判請求
    • 書面審理で罰金刑が決まる略式命令請求
    • 不起訴処分


    なお、被害者と示談交渉を行っているようなケースでは、処分保留のまま釈放されて、示談交渉の結果などをみて処分が決められることもあります。

4、警察から連絡を受けた場合は弁護士に相談を

16歳未満の子どもに面会要求をしたことで警察から連絡を受けた場合は、刑事事件として捜査が行われている可能性が高いと考えられます。
捜査の対象になった場合、逮捕、勾留されると最大23日間も身柄拘束を受ける可能性があるので、早急に弁護士に弁護を依頼するのが賢明です

面会要求等罪のように被害者がいる事件では、被害者と示談を行い、再犯防止措置をとる必要があります。
弁護士は、被害者の心情にも配慮しながら示談交渉を行い、専門家の目線で再発防止のための環境整備をサポートすることができます。

刑事手続においては、逮捕、勾留、起訴などの不利益な処分を受ける前に弁護活動を行うことができるかどうかが、その後の明暗を分けることが少なくありません。
警察から連絡を受けた場合は、早急に弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

5、まとめ

令和5年7月以降、性犯罪に関する規定が変わり、16歳未満(13歳以上は5歳以上年齢差)の者に対する性的な行為だけではなく、わいせつ目的での面会要求も罪に問われることになりました。

面会要求等罪に問われる行為をしてしまった自覚がある場合は、できるだけ早くベリーベスト法律事務所にご相談ください
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が全力でサポートいたします。

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