口頭の遺言は無効になる? 法的に有効な遺言書と作成方法を解説

2022年10月13日
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口頭の遺言は無効になる? 法的に有効な遺言書と作成方法を解説

甲府市が公表している令和2年の国勢調査結果によると、甲府市内の人口16万2877人のうち、65歳以上の人数は5万4487人でした。これは全人口の約33%の割合になりますので、甲府市内でも高齢化が進んでいることがわかります。

将来の相続対策として、遺言書の作成を考えている方も多いと思います。家族のみんなが揃っている前で、「長男にすべての遺産を相続させる」と発言した場合には、口頭による遺言として有効になるのでしょうか。また、遺言としての効力がないとしても口約束を実現する方法はあるのでしょうか。

今回は、口頭による遺言の有効性と法的に有効な遺言書の作成方法について、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。

1、口頭での遺言は法的に無効となる

「死後に財産を相続させる」という内容の口約束は、遺言として有効になるのでしょうか。以下では、遺言が有効に成立するための要件について説明します。

  1. (1)遺言は書面で作成する必要がある

    自分の財産をどのように処分するかは、所有者である本人の自由ですので、遺言によって相続人の1人にすべての遺産を相続させることもできますし、法定相続人以外の第三者に遺産を渡すこともできます(なお、この場合でも、法定相続人から相続財産を譲り受けた人に対して、遺留分減殺請求なされる可能性はあります)。

    しかし、遺言者が亡くなった後は、遺言者の真意を確かめることができませんので、遺言を残す場合には、厳格な要式性が求められており、民法が定める方式に従って作成しなければ、遺言としての効力は生じません。

    そして、遺言の基本的な要式として、「書面」によって作成しなければならないとされていますので、口頭による遺言は、法的には無効となります書面が要件とされていますので、口頭だけでなく、動画、メール、LINEによる遺言も同様に無効となります

    ただし、文字が書けない人が遺言をしたい場合や船舶が遭難して死亡が差し迫っている場合等例外的な場合には、口頭での遺言が行こうとされている場合があります(民法976条、民法979条)。

  2. (2)法定相続人全員の合意があれば口約束どおりの遺産分割が可能

    口頭による遺言は、民法の要件を満たさないため、無効となりますので、亡くなった方(以下「被相続人」といいます)の遺産は、法律によって相続人になることが定められている方々(以下「法定相続人」といいます)による遺産分割協議によって分けることになります。

    もっとも、口頭による遺言が無効になったからといって、口頭による遺言の内容どおりの遺産分割をしてはいけないというわけではありません。そのため、すべての法定相続人が同意しているのであれば、被相続人の口頭での遺言内容に従って、遺産を分けることが可能です

    ただし、口頭での遺言が一部の法定相続人に有利な内容であった場合には、必然的に不利な扱いを受けることになる法定相続人が出てくるということになりますので、法定相続人同士の仲が悪かったり、法定相続人同士の関係性によっては、合意を得ることが難しい場合もあります。

    したがって、遺言者が自身の意思通りに相続財産を法定相続人たちに残したい場合には、有効な遺言を残した方が良いため、口頭による遺言は避けた方が良いでしょう。

2、遺言書の種類と作成方法

一般的に作成される遺言書には、以下の3つの種類があります。

  1. (1)自筆証書遺言

    自筆証書遺言とは、遺言者本人だけで作成することができる形式の遺言書です。他の形式の遺言書と異なり、公証人や証人の立ち会いが必要なく、費用もかかりませんので、手軽な相続対策方法として多くの方が利用している方法です。

    ただし、他の形式の遺言と同様に厳格な要件が定められていますので、民法が定める要件のうち1つでも欠いた場合には、遺言が無効になってしまうリスクがあります。

    具体的な要件としては、以下の要件が挙げられます(民法968条)。

    • 遺言書の全文を自書
    • 遺言書の日付を自書
    • 遺言書の氏名を自書
    • 押印


    自筆証書遺言は、遺言者以外による偽造・変造のおそれがあることから、遺言者が死亡した後は、家庭裁判所における遺言書の検認手続きを行わなければ、遺言書に従って相続手続きを進めることができません。

    ただし、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用している場合には、偽造・変造のおそれがないため、検認は不要とされています。

  2. (2)公正証書遺言

    公正証書遺言とは、公証役場の公証人が作成する遺言書のことをいいます。公正証書遺言を作成するためには、公証役場に出向かなければならず、作成時には2人以上の証人を立ち会わせなければなりません(民法969条)。

    また、公証人に対して遺言書作成の手数料を支払わなければなりません。そのため、自筆証書遺言に比べると、手間と費用がかかる形式の遺言だといえます。

    しかし、公正証書遺言は、公証人という専門家が作成してくれますので、形式面の不備によって遺言が無効になってしまうというリスクがありません。また、作成された遺言書は、公証役場で保管されますので、遺言の紛失、偽造・変造といったリスクもありません。

    自筆証書遺言の場合、法律の知識のない方が作成すると遺言が無効になってしまったり、内容に疑義が生じ、法定相続人同士でトラブルになってしまったりするおそれがあります。また、保管場所によっては、遺言者の死後に自筆証書遺言が発見されないというおそれもあります。

    そのため、確実に遺言内容を実現するためにも、遺言書を作成する場合には、公正証書遺言の形式にすることをおすすめします

  3. (3)秘密証書遺言

    秘密証書遺言とは、遺言の内容を秘密にしたまま、公証人に遺言の存在を証明してもらうことができる形式の遺言書です(民法970条)。

    公証人が関与するという点では、公正証書遺言と共通する部分がありますが、秘密証書遺言については、遺言書の作成は遺言者が行うという点で異なっています。また、自筆証書遺言とは異なり、自書での作成が要件とはされていませんので、パソコンを利用して遺言書を作成することもできます。

    もっとも、秘密証書遺言は、自筆証書遺言と同様に内容によっては遺言が無効になるリスクがあり、保管は遺言者がしなければならないため紛失するリスクもあります。

    また、相続発生時には、遺言書の検認も必要であることから、実務上、ほとんど利用されていない形式の遺言書です。

3、「死因贈与」であれば口頭での約束が相続時に認められる可能性がある

口頭での遺言は無効となりますが、死因贈与であれば口頭での約束が有効になる可能性があります。

  1. (1)死因贈与とは

    死因贈与とは、財産を渡す人(贈与者)と財産を受け取る人(受贈者)との間で、贈与者の死亡を条件として行う贈与契約のことをいいます(民法554条)。

    遺言も死因贈与も、死亡によって財産が移転するという点では共通しますが、死因贈与は、契約として行うものですので、贈与者と受贈者の合意が必要になるという点で、遺言者が単独で行うことができる遺言とは異なっています。

    死因贈与には、遺言のような特別な要式はありませんので、口頭での合意でも死因贈与は有効に成立します。ただし、口頭での合意だけでは、贈与者が死亡した後に、死因贈与契約の存在を証明することが困難となりますので、通常は、死因贈与契約書を作成します。

  2. (2)口頭での死因贈与が認められる条件

    死因贈与には、遺言のような特別な要式はありませんので、口頭での合意でも死因贈与は有効に成立します。

    ただし、口頭での合意だけでは、贈与者が死亡した後に、死因贈与契約の存在を証明することが困難となりますので、以下のいずれかの条件を満たしていなければ、口頭での死因贈与に基づいて財産を譲り受けるのは困難といえるでしょう。

    • 証人や死因贈与等死因贈与の存在を証明することのできる客観的な証拠があること
    • 法定相続人全員が承諾し、死因贈与の存在を争わない意思を示していること


    そのため、死因贈与契約を締結する場合には、口頭での合意で終わらせるのではなく、必ず、死因贈与契約書を作成しておくことをおすすめします。

4、遺言書の作成を弁護士に依頼するべき理由

遺言書の作成をお考えの方は、弁護士に依頼することをおすすめします。

  1. (1)法的に有効な遺言書を作成することができる

    遺言書を作成する場合には、民法が定める厳格な要件を満たす必要があります。形式面の不備によって遺言が無効になってしまえば、生前に行った相続対策がすべて無意味になってしまいます。

    弁護士であれば、形式面に不備のない遺言書の作成を行うことができますので、遺言書の作成を検討している方は、まずは弁護士に相談をするとよいでしょう。

  2. (2)相続トラブルを回避できる内容を提案してもらえる

    遺言書の作成を考えている方のなかには、特定の人にすべての遺産を相続させたいと考えている方もいるでしょう。

    そのような内容の遺言書であっても法律上は有効ですが、他の法定相続人の遺留分を侵害することになりますので、相続開始後に遺留分をめぐって、遺産を譲り受けた人と法定相続人との間でトラブルが生じるおそれがあります。

    弁護士に遺言書の作成を依頼すれば、法定相続人の相続分や遺留分にも配慮した内容で遺言書を作成することができます。また、どうしても遺留分の侵害が生じてしまう場合には、付言事項を工夫するなどして、出来る限り争いを回避できるようにサポートいたします。

  3. (3)遺言執行者を任せることもできる

    有効な遺言書を作成しておけば、遺言書の内容に従って遺産を相続させることができます。しかし、複雑な内容の遺言書であった場合には、遺言書の内容を実現することが困難な場合もあります。

    遺言書の内容を確実に実現するためには、遺言書で遺言執行者を指定しておくことが有効な手段となりますが、遺言書の作成を弁護士に依頼した場合には、遺言執行者についても弁護士に任せることもできます

5、まとめ

生前の相続対策として遺言書の作成を検討している方も多いと思いますが、遺言には民法上厳格な要件が定められていますので、口頭での遺言については、無効となります。

形式面および内容面で不備のない遺言書を作成するためには相続問題の実績がある弁護士のサポートが不可欠となります。遺言書の作成をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています