身寄りがない人の死亡後の借金│相続財産管理人を介して支払いを求めるには?

2023年03月30日
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身寄りがない人の死亡後の借金│相続財産管理人を介して支払いを求めるには?

甲府市が公表している統計資料によると、令和2年に甲府市内にお住いの方で亡くなられた方は、2399人でした。その中には身寄りがない方も一定数含まれていると考えられます。

知人や友人など親しい個人間でお金を貸していて、返済途中で相手が亡くなってしまった場合、一般には相続人に対して借金の返済を求めることができます。しかし、亡くなった方に身寄りがない場合、借金はどうなってしまうのでしょうか。

借金をした債務者に身寄りがなかったり、相続人全員が相続放棄したりした場合、お金を貸した債権者は、相続財産管理人選任の申立てをすることで、借金を回収できる可能性があります。

今回は、身寄りがない友人や知人が死亡した場合にやってはいけない行為や、貸していたお金を回収する方法について、ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスの弁護士が解説します。

1、身寄りのない人にお金を貸した人の立場とは

そもそも法律上、お金を貸した人はどのような立場にあるのでしょうか。まずは基本的な知識を押さえておきましょう。

  1. (1)お金を貸した人は「債権者」になる

    人にお金を貸した場合、お金を貸した人は、お金を借りた人に対して、返済条件に従ってお金の返済を求めることができます。これを「債権者」といいます。

    他方、お金を借りた人は、返済条件に従ってお金を返済していかなければなりません。これを「債務者」と呼びます。

  2. (2)債務者が死亡したとしても借金はなくならない

    債務者が死亡したとしても借金が帳消しになることはありませんので、諦めずに返済を求めていくことが重要です。

    債務者が死亡すると債務者が有していた一切の権利・義務は、債務者の相続人に相続されます。現金、預貯金、不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や負債といったマイナスの財産についても相続の対象になります。そのため、債務者が死亡した場合には、債務者の相続人を調べて、相続人に対して、借金の返済を求めます。

    ただし、死亡した債務者に身寄りがなく相続人がいない、または相続人が全員相続放棄をしてしまったという場合には、借金の返済を求める相手がいないということになりますので、3章で後述する「相続財産管理人の選任手続き」を申し立てることによって、借金を回収できる可能性があります。

2、借金がある人が死亡し、その人に相続人がいない場合、やってはいけない行為

借金がある人が死亡し、その人に相続人がいない場合には、以下のようなことをやってはいけません。

  1. (1)故人の葬式代などを故人の財産から出す

    お金を貸した相手が友人や知人であった場合、身内に代わって葬式をしてあげたいと考える方もいらっしゃるかもしれません。

    しかし、亡くなった人に相続人がいない場合には、その人の財産は、相続財産法人になります(民法951条)。そのため、たとえ友人や知人であったとしても、故人の財産から葬式代を支払うことはできません。どうしても葬式をしたいというのであれば、自分の財産から葬式代を支出しなければなりません。

  2. (2)故人の荷物を処分する

    身寄りのない人が死亡すると、友人や知人が自宅やアパートの片づけを頼まれることがあります。しかし、上記のとおり、亡くなった方の荷物も相続財産に該当しますので、第三者が勝手に処分をすることはできません

    相続財産を処分するためには、後述する相続財産管理人の選任申立をする必要があります。

  3. (3)故人がしていた契約を解除する

    身寄りのない人がアパートに住んでいた場合には、賃貸借契約を引き継ぐ人がいないため、契約の解除の手続きを求められることがあります。

    しかし、建物を借りる権利も相続財産に含まれますので、第三者が勝手に契約を解除することはできません。この場合も上記と同様に相続財産管理人の選任申立をして、相続財産管理人に手続きを行ってもらう必要があります。

3、借金がある人が死亡し、その人に相続人がいない場合、相続財産管理人選任の申し立てをする

お金を貸した相手が死亡し、その人に相続人がいない場合には、相続財産管理人の選任申立をする方法があります。

  1. (1)相続財産管理人とは

    相続財産管理人とは、遺産の管理および清算する職務を行う人のことをいいます。相続財産の管理や処分は、通常は相続人が行うことになりますが、被相続人に身寄りがなく相続人が誰もいない場合や相続人がいたとしても全員が相続放棄をしてしまった場合には、遺産を適切に管理する人がいなくなってしまいます。このように被相続人に相続人がいることが明らかでない場合には、相続財産管理人を選任して、相続財産の管理・処分を行ってもらいます。

    身寄りのない人にお金を貸していた人も相続財産管理人が選任されれば、相続財産から借金の返済を受けることができるので、相続財産管理人を選任することは、債権者にとってもメリットがあります。

  2. (2)相続財産管理人選任の流れ

    以下では、相続財産管理人選任の流れについて説明します。

    ① 家庭裁判所に申立て
    相続財産管理人の選任をするには、まずは、家庭裁判所に相続財産管理人の選任の申立てを行います。

    相続財産管理人の選任申立をすることができるのは、以下の人に限られます(民法952条1項)。
    • 検察官
    • 利害関係人
    利害関係人には、被相続人の債権者、特別縁故者などが含まれますので、身寄りのない人にお金を貸していた人も相続財産管理人の選任申立をすることができます。

    ② 審判
    家庭裁判所は、申立人から提出された書類に基づいて相続財産管理人の選任をするかどうかの審理を行います。審理の結果、選任の要件を満たしていると判断した場合には、相続財産管理人を選任する審判をくだします。

4、相続財産管理人選任後の流れ

相続財産管理人が選任された後は、以下のような流れで手続きが進んでいきます。

  1. (1)相続財産管理人の選任公告

    相続財産管理人が選任されると、その内容が官報に掲載され公告されます(民法952条2項)。

  2. (2)相続財産の調査・管理

    相続財産管理人は、相続財産の調査を行い、財産目録を作成します(民法953条、同法27条1項)。また、調査の結果明らかになった相続財産については、適切な方法で管理または換価していきます。

  3. (3)請求申出の公告

    相続財産管理人の選任公告後2か月が経過しても相続人があらわれなかった場合は、相続債権者および受遺者に対して、2か月以上の一定期間内に債権の届出をする旨を官報に掲載し、公告します(民法957条1項、同法927条2項)。

    相続財産管理人がすでに把握している相続債権者や受遺者がいる場合には、公告と同じ内容を個別に通知して知らせます(民法957条2項、同法927条3項)。

  4. (4)相続債権者・受遺者に対する弁済

    相続財産管理人は、債権届出のあった債権者などに対して、債権額に応じて相続財産から弁済を行います。お金を借りている人が死亡し、その人に相続人がいない場合には、お金を貸した人はこの段階で借金の返済を受けることができます。

    相続財産管理人は、相続債権者・受遺者に対する弁済ができるようにするために、相続財産に不動産などが含まれている場合には、売却や競売などによってお金に換えていきます。

  5. (5)相続人捜索の公告

    請求申出の公告後も相続人がいることが明らかでない場合、6か月以上の期間を定めて相続人捜索の公告を行います(民法958条)。この期間内に相続人の権利を主張する人があらわれなければ、相続人がいないことが確定します。

    ただし、相続債権者に弁済した結果、管理人報酬・管理費用に鑑みて残存財産がなくなる見通しがあれば、この場合相続財産管理人は相続人捜索の公告手続をするまでもなく、家庭裁判所への管理終了報告書の提出など任務終了への手続きをとることになります。

  6. (6)特別縁故者に対する相続財産分与

    特別縁故者から家庭裁判所に対して相続財産の分与を求める申立てがあった場合、家庭裁判所から相続財産管理人に対してその旨が通知され、特別縁故者に対して相続財産分与の手続きを行う場合があります。

    特別縁故者とは、被相続人と生計をともにしていたり、身の回りの世話をしていたりした場合など被相続人と特別な関係にあった人のことをいいます。

    特別縁故者は、相続人ではありませんが、裁判所から特別縁故者であると認められた場合には、相続財産の全部または一部の分与を受けることができます(民法958条の3第1項)。

  7. (7)残余財産の国庫帰属

    期間内に相続人として権利を主張する人があらわれず、相続債権者・受遺者への弁済や特別縁故者に対する財産分与によってもなお相続財産に余りがある場合には、残った相続財産については、国庫に帰属します(民法959条)。相続財産管理人は、残余財産を国庫に帰属させる手続きを行います。

  8. (8)管理終了の報告

    相続財産管理人の業務がすべて終了したら、家庭裁判所に管理終了報告書を提出します。これによって相続財産管理人の業務は終了となります。

5、まとめ

お金を貸した相手が亡くなった場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。弁護士であれば、亡くなった債務者に相続人がいるかどうか調査を行い、相続人がいる場合には、相続人に対して返済を求めていくことができます。

また、相続人がいない場合でも相続財産管理人の選任申立てを行い、貸していたお金の回収をできる可能性があります。このような手続きを個人で行うことは負担が大きいため、早めに相続トラブルの解決実績がある弁護士に相談することが大切です。

ベリーベスト法律事務所 甲府オフィスでは相続問題の実績がある弁護士が、お困りの内容を丁寧にヒアリングしサポートいたします。ますはお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています